亮の日記

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悠木さんが亡くなって1ヶ月。悲しくて悲しくて、毎日涙がこぼれます。でも日々は過ぎて行き、僕も屋敷を切り盛りするのに精一杯です。まだ世の中に慣れていない僕は、電話にでるのが苦手。キャッチセールスの人に捕まって換気扇やクーラーの掃除、マンションや美顔器のセールスの人が来たりします。それで、電話にはなるべく出ないようにだんな様から言われてしまいました。久し振りに口をきいてもらえたと思ったら…でも、お屋敷のみんなは経験するのが一番だから電話に出なさいと言います。僕も知らない人と話すのはちょっぴり楽しいです。

悠木さんのかわりにだんな様のお世話もするようになりました。だんな様は相変わらずですが、上着を着せて差し上げる時、少しだけ膝をかがめてくれるようになりました。でも、ネクタイは結ばせてもらえません。たつみさんに沢山練習させてもらったのだけど…

「そりゃあ、妬いてるんだよ」

と、たつみさんは笑っておっしゃいました。僕はだんな様のために練習しているのに…でもきっと、だんな様の前ではとても緊張するので、うまく結べないだろうな…

でも、本当はうまくなったんですよ…

悠木が危篤状態の時、一心不乱に祈っていたお前の姿は今でも鮮明に思い出せる。とても不思議なことに、真っ白な光がお前と悠木を包み込んでいて、祈りを捧げるお前は天使のようだったよ。悠木の身体が弱っていたことは知っていて、何度も入院を勧めたのだが…お前のことを放って休んでいるわけにはいかないと…私が悠木を殺したも同然だな。悠木は私の父の執事だった。幼なじみでもあり、父のことを誰よりも深く想っていた。生涯かけて紅宝院家を愛し尽くしてくれた悠木は最後にお前に出会えてどれほど嬉しかっただろうね。不甲斐ない主を、年老いた自分に変わって尽くしてくれる人に出会ったのだから…悠木はこの数年、天国から私の様子を見ながら呆れ返っていただろうね…父と二人で文句を言っていただろう。いや、こんなバカな男に育ててしまって申し訳ないと、父に謝ってばかりいたかも知れないね。何もかも私の責任だ。

私とは口を聞かないクセに知らない連中とは仲良さそうにしていたのが気に入らなかったのだよ…子供じみていると思うが…一生治らないかも知れない。巽は妙に勘が良いからね。もう二度と巽のネクタイを結ばないで欲しい。亮が触れて良いのは私だけだ。