今年のクリスマスは比較的暇だ。本田が克彦さん一筋で、黒瀬系列の店の誘いすら断る事にしたからだ。プレゼントを選んで各店に送るだけで、3時間程で終わってしまった。

去年までは大変だった。
同じ物を贈るわけにもいかず、店の格、売り上げも考慮し、その上、下世話な話だが本田と関係があった女性には別に相応のプレゼントを贈っておかないと、女同士の戦いが始まり私にも被害が飛び火する。今年は最初の3ヶ月しか女性との付き合いがないので非常に楽だった。


しかし、克彦さんに対しては2ヶ月前からあれこれ悩んだ末…家族と疎遠にしている克彦さんを家族に会わせ、その上本田との関係を報告すると言う。
克彦さんの実家が教会である事は最初から分かっていた。本田と共に教会へ行き、牧師を納得させる…私たちヤクザが、牧師を説得しなければならないのだ。神に仕える人間に、神に背いた人間が…

 だがそれは意外とうまく行った。最初に本田と沼田と私は克彦さんのお父上の元へ向かった。その日は雨が降っており、暗く、肌寒かった。私たちにはお似合いの天気だが、事始めの日としては最悪だ。
 詳しいことは話さずに、克彦さんのことでお願いがあるとだけ伝えて会う約束を取り付けていたのでお父上はさぞかし不安だったろう。
 しかし彼は、私たちの予想を裏切り温かな笑顔でもてなしてくれた。回りくどい事は抜きに本題から入り、本田の意向を伝え終えたときはさすがに驚かれて、克彦さんが贈ってくれたというソファーの上に座り込んでしまわれたが…
 そうしている間も、驚きが去った後は苦悶の表情ではなく、嬉しそうに微笑んでいらっしゃった。どこかやはり克彦さんに似ているところがあり、今年で75才になられるというのに若き日の美青年振りを思い起こさせる笑顔だ。お母様も途中から話しを聞いておられたが、嬉しそうに涙ぐみ、最後に私たちは感謝の言葉まで頂いた。
 克彦さんが家族にも恵まれず、一生一人で過ごすのかと思うと心配でたまらなかったのだそうだ。 


 その後、日を改めお兄様を訪問した。
 お兄様の教会は、ご実家の、少々趣のある教会に比べると新しく小綺麗だった。そして、克彦さんと良く似ているがもう少し男性的で背も高いお兄様にお会いした。美形の家族である。そして優しさもご両親譲りで、プロテスタントの牧師なのにエクソシストの称号を持っていそうな、聖職者としての力が溢れていた。
 
 私は人を殺めたことがあります。時々その人を殺したいと言う欲望が膨らみ、いつもの自分を見失うことがあります。激しい訓練で精神を集中させると収まりますが、そもそもなぜ私は人を殺したいと強く思うのでしょう?人を助け守るために鍛錬したはずなのに…
 そんな自分の心の内を、この人に話してみたいと思った。何故私は夜叉となるのか…克彦さんや黒瀬組を守るために強くありたいのに…
 その答えを知っていそうな私の敬愛する師匠はもういない。克彦さんのお兄様は武術の心得など無く、稽古を通して私の内面を推し量ることは出来ないだろうが、もし神の教えの中に答えがあるのなら、いつか話しを聞いてみたいと思った。

 だが、もしその答えを知ることで私のこの力が少しでも衰えるなら、そんな答えはいらない。かつて愛した人が私に残してくれた力だから…

 本田と克彦さんの事で、少し感傷的になってしまったな…このクリスマスが終われば年始の挨拶の準備に取りかからなければならない。忙しくなる前に、少しでも自己鍛錬をして自分を取り戻しておかなければ…
 明後日の朝までは本田も克彦さんと二人きりで過ごす予定だ。明日の早朝にでも、道場へ顔を出してみるか…
 浮かれ気味の世の中に背を向けている私の同胞が一人や二人、いるかも知れない。

 有意義なクリスマスを。 

END

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

心を閉じられた吉野さんも、いつかまた幸せになって欲しいですね。でも、彼の毎日は楽しそうです。これからも時々覗いてみましょうね。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Merry

Christmas

吉野千草