園部と沙希
「ん…んや…ぁ」
蛇にがんじがらめに絡めとられ身動きも出来ず、あとは丸飲みされる運命を待つだけの白ウサギのように、沙希は園部に好き放題嬲られていた。
「はるさん…やめ…っん」
ニューヨークへ来て二ヶ月。園部のお陰で進学することになった沙希は私立の学校に通い始め、言葉はまだ不自由だったが友達も出来て、何より園部と一緒に暮らすことが出来て幸せだった。
ただ一点を除いて。
園部と身体を繋ぐことは嫌いではない。心は最初から満たされていたので、幼い身体が喜びを覚えるまでに時間も掛からなかった。
沙希がいやなのは…
「やめて良いのか?いつもより大きくして…説得力が無いな…ん?…ほらどうした…こうされると…溢れてきたぜ、腰が…勝手に動いて…気持ちいいんだろう?」
沙希が嫌なのは、園部のエロオヤジっぽい実況中継だった。
太いくせに繊細な動きでペニスを扱かれ、沙希の下腹は自分で零した蜜でぐちゃぐちゃだ。我慢の効かない沙希の身体は、園部に愛されると直ぐに射精してしまい体力を消耗してしまう。絶倫の園部は沙希を長引かせるために工夫をする一方で、快感を煽るような卑怯な真似をするのだった。
今も、沙希の新鮮な果実のようなペニスの根本を縛り、射精できなくしてしまった上で、手加減無しの愛撫を施している。
「あっあっぁ…もう、やっ…はずして…んぁっ…はぁっん…」
「まだだめだ…まだ、後ろをちゃんと愛してからだ…」
それだけで十分な太さがある指が沙希の蕾にぐっと差し込まれる。沙希自身のもので十分に粘りを帯びたそこは、最後の抵抗をしようとぎゅっとすぼめられたが、くちゅっといやらしい音を立てて飲み込んでしまった。こうなると沙希は諦めるしかない。最初のセックスの時から、沙希の後孔は園部を感じて、沙希の意思とは逆に理性を吹き飛ばしてしまった。
「沙希、ここでいけ…」
そこで達くと、沙希は豹変する。
それも、沙希が嫌なことの一つだが、そんな沙希を見て喜ぶエロじじいの園部も嫌だった。
「もうっ!!今日から旅行に行くから酷い事しないって、ゆった!!」
食事係が作ってくれたふわふわのフレンチトーストをつつきながら、沙希はだらしない恰好でしか座れないようにした張本人、目の前で楽しそうに笑っている園部にぷんすか文句を言い続けていた。
「沙希、怒りながら食べたら消化に悪い。大きくなれないぞ」
「大きくならなくて良い、小さい沙希が好きってゆった!!」
少なくとも週に一回繰り返される朝っぱらからの寸劇は、園部の部下達の楽しみでもあった。普段はとても行儀が良く、お人形のように可愛いのに大きな男達を苦もなく投げ飛ばす「日本男児」な沙希がどうしようもなく下らない我が儘を言い出し、非情で厳格な自分たちのボスがへらへら笑いながら応戦する、日頃とのギャップが楽しい。
今日からしばらく園部の元契約愛人で、愛人稼業を引退して故郷で姪っ子と悠々自適に暮らしているグレンの住む町に遊びに行くのだ。もうすぐハロウィン。日本でもオレンジ色のカボチャのお化けが街を飾っているのを沙希もよく見て知っているが、グレンの住む町では町を挙げての大仮装行列があるそうだ。一週間ほど続くお祭り騒ぎには観光客が押し寄せ、どこを見回してもヘンな仮装の人でいっぱいらしい。
お祭りも楽しみだけど、あのグレンに会うのだ。
金髪に緑の目で、めちゃくちゃ綺麗で優しくて頭も良い、あのグレン。
園部が一番気に入っていた愛人のグレン。
沙希は園部とグレンが並んでいるところを見て、嫉妬して、自分の気持ちに気がついた。グレンが愛人稼業で稼いだお金は全て園部が管理して資産運用をしているので今でもたまに連絡を取り合っていて、園部もグレンもお互いに愛し合っているわけではないと分かっていても、園部との関係がまだ短い沙希には割り切れない思いがある。
だから…
せめて見た目の恰好くらいばっちりキメておきたかった。
園部のドエロオヤジに精も魂も吸い取られた上に、お尻は痛いし足の間に大きなものが挟まったままのような感覚が取れないしで、出来損ないのロボットのようなみっともない歩き方しかできない。
せっかく日本から新しい着物が届いたのに、ちっともさまにならないではないか。
「大丈夫。ちゃんと歩けるようになるまで俺が抱きかかえてやるから。でねぇとお前、すぐ迷子になるだろう」
「うぅぅ…」
それを言われると言い返せない。
沙希はアメリカに来て和服を着て過ごすことが多くなった。園部のはからいで私立の学校に編入したのだが、その制服以外、家で寛ぐときも和服。
外出すると、アメリカは背が高い人間が多くて沙希を見失う事が頻発。園部には沙希センサーが付いているのかわざと隠れてもバレるのだが、背の高い護衛達は、沙希が足元にいてもたまに見過ごす。
沙希に目立って欲しくないけれど、人波に揉まれて流されて迷子になるほうがもっと問題だったので、目立つ恰好をさせているのだ。そうすれば人の視線やちょっとした台詞で沙希の居場所が分かる。
園部が一緒の時は、子供のように(子供だが)手を繋いで離さないが、護衛には必要以上見るな触るなと言い聞かせている。沙希の黒目は人を吸い込むようで、その気がなくてもいつの間にか惚れていたり、いきなり襲いかかったりしたくなるらしい。襲いかかれば投げ飛ばされる可能性が高いのだが、溌剌とした沙希の表情を不信感で曇らせたくなかった。
一番最近日本から送られてきた荷物の中に、沙希のハロウィン用の着物があった。最初に入った呉服屋の主人が特別に誂えてくれたもので、鮮やかなオレンジ色の着物に濃い緑の袴で、着物には店主が手作業で付けたカボチャランタンのアップリケやら箒に乗った魔女やら、おなじみのハロウィンキャラクターが付いていて…見たときはさすがに苦笑いしたが、着てみると案外可愛い。
克彦さんや吉野さんから送ってもらった徳用のいりこや鰹節、日本米、ミソも小袋に分けて荷物に詰めた。これもカボチャの柄の風呂敷だったりして、何もかも準備万端だったのに!!
自分だけが身体に力が入らず、園部に荷物のように抱きかかえられて出発。出会った最初のころのように園部に抱きかかえられるのは嬉しいし、高いところから見る風景も悪くない。でも、抱きかかえられているとそんな事より園部にもっとくっつきたくなる自分がちょっぴり情けなかった。
「もうすぐ冬なのに…すっごくあったかい…みんな裸だし…」
ホテルのバルコニーから海岸線が見渡せ、ほとんどの人が男女問わず裸で甲羅干しをしている風景が広がっている。
「ああ。ここは年中あったかいからな」
「海も、すっごい綺麗…水着持ってくれば良かったー…海で泳いだこと無いんだ俺」
「水温は低いから泳げないぞ。それに…人前で裸になるな…」
「…泳ぐのは良いの。水着は下着じゃないの」
「…後で買いに行くか?ホテルのプールでだったら泳げるぞ」
「ホント!?じゃあ泳ぐ!」
「…キスマークを気にしなければな…」
はっとして着物の胸元を引っ張りのぞき込むと…鬱血の後が点々々々々…
「ハルさん…もうっっ!つけちゃだめって!!」
学校に通うようになって、スポーツの授業で着替えるときなど必要以上に気をつけないとならず、ちょっと鬱陶しい。ある時は自分の名前をキスマークで描いていて…一日中口を聞かなかったけど…ずっと一緒にいるような気がしてそんなに嫌じゃなかったのは、内緒である。
こそこそ脱いでさっと着替えるのは少年らしくばーんと脱いで着替えていた頃に比べると女の子みたいで気になるが、園部のように辺り構わず見せびらかすように裸で歩き回るのも行儀が悪い。沙希がパンツをもって追いかけ回すのも園部家の日常になっていた。
「水着に着替えるか、よそ行きに着替えるか、早くしないとグレンが可愛い姪っ子連れて来るぞ」
「わ…もうそんな時間…って、水着に着替えるわけ無いでしょ…」
今夜は園部と沙希が泊まっているホテルにグレンと姪っ子を招待している。姪っ子も可愛いと聞いていたけれど、元契約愛人で超綺麗なグレンがくるのだ。沙希は負けるもんかと新しい着物に袖を通した。
ホテルの豪華なロビーのその一角だけ、白く輝いて見えた。豊かに波打つ長い金髪、白のロングジャケットにオフホワイトのパンツとブラウス、瞳の色と同じエメラルドグリーンのアクセサリーを着けたグレンは王子様みたいで、その隣の薄いピンク色のワンピースを着た女の子も可愛くて、沙希はじーっと見つめてしまった。園部とグレンが頭上で濃厚な再会のキスをしていても気にならないくらいじーっと見とれてしまい、逆に園部に頭をこつんとやられてしまった。
「沙希、姪のエセルだよ。エセル、この子は沙希、お人形さんみたいだけど、とっても強いんだよ。エセルよりみっつ年上」
エセルは年下だったが沙希と同じくらいの身長で、将来はもっとすらりと伸びそうな感じだ。日本にいるときは女の子などそんなに気にならなかったが、エセルは天使のように可愛くて、沙希の心臓はやたらとどきどきし始める。
「は、はじめまして…」
挨拶は完璧だが、それ以外の会話はまだ不自由で、こんなことならもっとしっかり英会話のレッスンを受けていれば良かったと後悔。今通っている学校は男子校だし、女の子相手の会話などやったことがない。
緊張しながら挨拶すると、エセルはにっこり微笑んで挨拶を返してくれた。
「おやおや…HALにライバルができちゃったよ?」
グレンも笑うとエセルにそっくりだった。
食事の後はホテルのバーでグレンにキー・ライム・パイを奢ってもらい、大人二人が難しい投資の話を始めたので、沙希はエセルを誘って少し離れたところに二人で座った。
エセルは食事の間、一生懸命話す沙希の片言英語も熱心に聞いてくれて、ゆっくり簡単な単語で話してくれた。優しさもグレンと同じ
「明日エセルの家に行くとき、プレゼント持っていくね。それから僕が夕食を作るんだよ」
「沙希は料理好きなの?」
「うん。うちの夕食はほとんど僕が作るの。エセルは嫌いな食べ物ある?」
「んー…ない」
「じゃあ楽しみにしててね」
にっこり微笑むエセルはやっぱり可愛くて、どきっとしてしまう。中学生の頃の女の子ってこんなに可愛かったかな?
グレンに対抗心を燃やしてできるだけ綺麗な恰好をしてきてしまったのは失敗だった。もうちょっとこう、男っぽい服が良かったのに…せめて無地の着物を持ってくればよかった…
「沙希はガールフレンドいるの?」
「う…えと…今の学校は男子校で…アメリカに来て三ヶ月くらいで、友達少ないんだ」
「そう。じゃあ私が初めてのガールフレンドね」
「うん。仲よくしてくれる?」
「沙希はとっても可愛いからお友達になりたい」
沙希とエセルが夢中になって他愛もないことを話していたら、園部とグレンがやってきた。
「なにいちゃついてんだ?」
「はるさん…明日僕が夕食作るって言ったの」
外人と一緒にいるときは園部とも英語で話すようにしているので、いつもより子供っぽい言葉遣いになる。
「そうか…」
「市場ある?」
グレンに訊ねると、ゆっくり頷いた。
「じゃあ、僕と一緒に作ろうか?朝市があるけど、行ってみる?」
「行きたい!」
「オッケー。朝の六時半に迎えに来るけど大丈夫?」
グレンはにやりとしながら園部を振り返った。
「起きられなかったら、ずっとはるさんと口きかない。だから大丈夫」
沙希は部屋に帰るとスーツケースをひっくり返し、少しでも男っぽく見えそうな着物を探し始めた。エセルに会うときくらいは男っぽく見せたいと思ったのだが…
「これかなー…」
黒地に葵の小紋…袴は…一番渋いのは伽羅色のだ。やっぱり派手。
でも、花柄よりはマシ?
などととっかえひっかえ散らかしていると、園部が横から抱きついてきた。
「何悩んでんだ?」
「うん…もうちょっと渋いのないかなって…」
「可愛くしとけ」
「でもさ…」
「ん?」
「はるさんは、俺が、こう、男っぽくて格好いい服着るの、やなの?」
「…そうでもないぞ?NYに帰ったら買い物行くか?」
それじゃ遅いけど…今後のこともあるし、そうしてもらおう。
「片付けてやるから、早く寝間着に着替えろ。明日はやいんだろ?」
「うん。はるさん、どんなのが食べたい?島だからやっぱり魚だよね?」
「そうだな…沙希が作るものだったら何でも良いぞ。強いて言えば、お前が食べたい」
だめ、今日は絶対ダメ、明日から口きかないよ、絶対やだ…
と言いつつも、園部にキスされると次第に頭の中が真っ白になって、身体が溶けてしまうのだった。
「ほーらー…早く迎えにくるって言っただろ?ぐずぐずしてないで起きるよ!」
さっとカーテンが開けられ朝の光が飛び込んでくる。薄い肌布団を思いっきりめくられびっくりしたが、だるくてすっきりしない…
「んー…」
園部の声とは違って甘く華やかな声で、なかなか開かない目をこすってやっと薄目を開けてみたら…
「グレンさん…!」
結局何回か求められ、ぐだぐだになってしまった。
「沙希ちゃん、早く行かないとお魚がうりきれちゃう。シャワーに連れて行ってあげるから、しゃっきりしておいで。このタヌキ寝入りのおじさんは僕が見張っておくから」
グレンはそう言って沙希を軽々と抱き上げ、シャワールームに放り込む。
「早く出てこないとHALをおそっちゃうよ?」
ウィンクしながら言われたので冗談なのだろうけど…ぼやーッとする頭を何度か振り、シャワーの栓をひねった。
事の後はどんなに遅くなっても、園部が抱きかかえて風呂に入れてくれるので、シャワーに時間はかからなかった。グレンが入ってきてから十五分後には着替え終わり、市場へ向かう。
「わ、えびがうじゃうじゃ…魚が南国だね…ヘンな貝もある…」
「コンク貝だね。ここの名産。生で食べられるよ。買っておく?」
当たり前だが魚の種類が日本と違い、NYとも違うので全てグレンに選んで貰った。グレンの説明は丁寧で分かり易い。
「コンク貝って綺麗だね…」
「真珠もとれるんだよ。綺麗なピンク色でね…沙希ちゃん似合うだろうからHALにおねだりしてみたら?」
「俺?俺よりエセルに似合いそう…」
「うん。エセルにも似合うね。彼女はピンク色が大好きなんだよ」
そうか…ピンク色か…女の子らしいな…
水温が低くて泳げないという割にビーチには人が沢山いて、沙希はエセルと一緒に甲羅干しをする人達の脇を抜けて、波打ち際で裸足になって遊んだ。沙希はピンク色が好きなエセルのためにピンク色の貝を沢山拾い、エセルに手渡す。エセルの肌は抜けるように白く、色白の沙希より眩しく光っているような感じで、ピンク色の貝をただ手の平にのせているだけなのに、凄く希少な宝石を身に纏っているようだった。
しばらくの間透明で美しい水際を二人で歩き、時々見える色とりどりの魚の名前をエセルが教えてくれた。テレビでしか見たことがないマングローブも見たし、海に沈む夕日も見た。
これってデートみたい…
園部とは暇さえあればデートしていたが、園部といる時とは違う高揚感がある。その園部は、グレンと二人で50メートルほど後ろからゆっくり付いてきていた。いつもならちょっとでも他の人間が沙希に触れようものなら飛んできて引き剥がすのだけど…試しにエセルと手を繋いでみたが、園部はグレンと話し込んでいてこちらを見ていない。エセルの手は小さくてふわふわしていて、ぎゅっと握ると潰れてしまいそうだった。
「さて、帰ったら俺の料理を食べさせて上げるからね」
沙希はエセルを連れて、園部とグレンの元へ踵を返した。
「沙希、今日は凄く混雑するからこれを袂に入れておけ」
派手なオレンジ色のカボチャが沢山付いた着物を着て、カボチャのかぶり物をかぶった沙希に渡されたのはGPS携帯。
「これだけ目立ってたら、すぐ見つかるよ?」
「いつもだったらな。今日は強烈なのが街に溢れかえってる。沙希くらいじゃ誰も覚えていてくれない。小さいし、人に揉まれたらあっという間にひきはなされるからな。念のためだ。持っておけ。迷子になったらできるだけ動くな。直ぐに迎えにいくからじっとしてまってろ。分かったな?」
こくん、と頷く。
今日はエセルとグレンも仮装をするそうだ。昨日、衣装を見せて貰ったけど、仮装というよりふたりにはぴったりの服装で…エセルはアラブ風の王女様でグレンは…黒い羽根を背負った天使。園部はそんなガラではないけれど、カボチャ大王模様のネクタイを沙希がプレゼントしていた。
一応シルクらしいけれど、ブランドものらしいけど、カボチャ大王である。実はこれが初めてのプレゼントで、しかも沙希が日本で貯めていたお小遣いは微々たる額なので、ここだけの話、2千円のネクタイだったりする。 園部がいつもしているネクタイはたぶんケタが一つ大きいだろう。それでも喜んでくれて、お祭りだからと見たことないけどちょっぴり華やかな締め方で遊んでいる。
「エセルもグレンも綺麗だろうな…」
「沙希が一番だ」
抱き上げられて軽くキス。
「はるさん…どうみても、あの人達裸なんだけど…」
仮装がメインでハロウィンなどどうでも良いようだった。
自慢なのか逞しい身体を全裸に近い状態で晒している男達の集団が近づいたとき、沙希は園部に目隠しされてしまった。
「見んな。教育上、悪い。あっちもダメ」
あっちはある意味見たくないぷよぷよボディーにマッチョ体型をボディペインティングした集団だ。
「あ、パフェが歩いてるよ、パフェ!」
そっちは、お見事な、まさしくパフェで…チョコレートと苺とミックスフルーツのパフェがフラペチーノを食べながら歩いている。
この日ばかりは肖像権だなんだとうるさいアメリカ人も、カメラを向けるとにっこりポーズをとってくれる。それでも日本男児な沙希はたたたっと近づいていって一言許可を取ってからカメラに収める。
可愛いカボチャの沙希も人気者で、写真だけならまだしもほっぺたにキスされたりハグされたり、園部の強面は歪む一方だった。
グレンは地元だけあって、沢山の知り合いに声をかけられていた。真っ黒のセクシーなドレスに黒い羽根、お化粧もしているようで、ほんとうに綺麗で、色々な男の人達から声をかけられキスされ抱き締められ、そのたびに超絶綺麗な笑顔を振りまくものだから、グレンの背後にはイケメンの列ができていた。
王女様のエセルは…ふらふらしないように沙希がしっかり手を握っていた。けれど、未来の女王をねらっている男達は沙希が考えていたよりも多いようで、中学生だか高校生だかわからないけどちょっかいを出してくる。
中にはタチの悪そうな若者もいて、そんなやつがしつこく付きまとってくると沙希は表情を引き締め、微妙に戦闘モードになる。
沙希は人を傷つけない合気道のほうが好きだが、アメリカでは自分の身を守るためにもう少し攻撃力を身につけた方が良い、と言うことで暫く休んでいた空手も再開。吉野の薦めで入門した合気道の流派も打撃の技を使う派なので、今まで以上に集中力が必要になっていた。その結果、ほんの少しだけ沙希の迫力が増したのだが、園部からみればまだ可愛らしい程度だ。
だが、見た目の百倍は強いので、侮ると痛い目に合う。
今もまたエセルにしつこく言い寄って、沙希の手を振り払おうとしていた輩が…地面に…膝をついた。
一部始終を園部は見ていたが…沙希が素早くその場を離れ、園部の近くに戻ってきたとき、腕をひねられた少年が何と言ったかまでは聞こえなかった。
「沙希、大丈夫か?」
「うん。俺は大丈夫。エセル、恐かっただろ?ごめんね」
「私も大丈夫。でもあいつ…さっきの男、確か、この町一番のワルだと思う。沙希に仕返ししなければいいけど…」
「俺よりエセルの方が心配だよ。俺は明後日にはNYに帰るから…グレン、さっきの子だれ?」
グレンも帰って来たばかりで子供のことまで知らない様子だった。が、グレンの後ろに鈴なりになっていたイケメン達は知っていたようで…
「あれは、たしかマイアミからこっちに移ってきたベリーニの孫だよ。じいさんはマフィア。隠居して愛人連れて離島に住んでる。時々釣りのガイドやったり食料届けたりしてるけど…楽しいじいさんだよな?」
孫は去年の冬からじいさんの元にやってきた。我が儘に育てられた長男で、手を焼いた親が祖父の元に放り出したのだろう。教育係を付けられて街の学校にも通っているが、今夜のように抜け出して仲間と徘徊するのが常。
14才にして『前科持ち』だが、親の金と権力で握りつぶしたと言われている。
「どうだかな…自分で言いふらしてるだけだろ。ハクが付くとでも思ってんだな、馬鹿が」
ガキの一人が暴れるくらいどうと言うことはない。だが親やじいさんが出張ってきたら、グレンに迷惑が掛かるかもしれない。マイアミのベリーニは記憶になく、と言うことは黒瀬組の武器密輸とは係わっておらず利害関係もないと言うことだ。向こうが先に手を出したのだから回避する方法はいくらでもある。暫くはグレンの側に護衛を置いておこうか…と園部は考えた。
「お前は知らねぇのか、ベリーニ一家」
「んー…昔からマイアミでは良く聞く名前だけど…僕は15の時からNYだったから…」
園部は改めて自分がグレンの事を何も知らない事に驚く。グレンも一切自分の過去は話さなかったが、園部も聞かなかった。あくまで仕事と割り切っていたグレンの強さは見上げるものがある。
「まあ、何かあったら俺が責任とってやる。沙希がのしちまったんだからな」
心配そうに見上げている沙希の手を取り、一行はまたけばけばしい祭りの雑踏の中に踏み込んでいった。