「お母さん、これは?そのまま煮たら苦くて食べられなかった事があるんだ…」
 凰雅は山菜ごはんを作ろうと思って大失敗したことがある。混ぜごはんにしようと思ってごはんと一緒に炊かなかったので被害は最小限度に食い止められたが…
「これを小さじ2杯くらい入れて。これ便利だから、食用を沢山買い置きしておくと良いわよ」
「なに、この白い粉…」
「主婦の白い粉、重曹よ。お掃除にもお洗濯にも使えるから。柔軟剤代わりになるし、お掃除には酢と混ぜるの」
「ふーん…」
「洗剤使うと手が荒れるでしょ?ピアノ弾きにくくなるから気をつけなさい」
「うん。響さんが毎晩クリーム塗ってくれるよ?」
「あらまぁ良いわねぇ…お父さんなんか全然気にしてくれないわよ?見習わせなきゃ…」
 二人の会話は居間で新聞を広げていた父に丸聞こえだ。母は聞かせるために話しているから別に構わないが…
 今日は母に命令されていた嫁入り修行のために実家へ帰ってきていた。響は昨日からヨーロッパへ演奏旅行に出掛け、響と暮らし始めて、初めての一人寝はことのほか寂しくて、響が帰ってくるまで実家に泊まることにしたのだった。
 兄が言ったとおり、凰雅の部屋と練習室はお嫁さんの部屋と夫婦の寝室に模様替えされていたので、凰雅は母がレッスンに使っている部屋に布団を敷いて眠ることになる。
「兄さんのお嫁さんはいつ来るの?」
「あと1時間くらいかしらね?幼稚園の先生でね、お弁当やお菓子作りがとっても上手なの。今日はフルーツのショートケーキを作ってくれるんですって。凰雅ショートケーキ好きでしょ?」
「うん。ケーキかぁ…作り方習おうかな。響さん、ファンからもらったお菓子は全部スタッフにあげて、俺には自分で買ってくるんだよ?もらったもの持って帰ればいいのにね」
「それはあなた、凰雅には自分が買ってきた物を食べてもらいたいからよ。人からもらったものじゃなくてね」
 お菓子やお花は一切持って帰らない。でも、家にはいつもお花が飾ってあるし、美味しいと評判のお店のケーキは並んででも買ってきてくれる。忙しい合間を縫って買ってきてくれるので、凰雅は雑誌で美味しそうな物を見ても美味しそうとは言えなくなった。それでも凰雅が食べたいと思った物を外さずに買ってくるのだ。
「よっぽど気が合うのね。凰雅の事をちゃんと見てる証拠よ。お父さんなんて…」
 居間から咳払いが聞こえてきて、凰雅と母親は顔を見合わせて笑った。


「まさかこうなるとはな…」
 父はキッチンに聞こえないように、鳳樹に囁いた。
「凰雅の嫁はきっと小さくて可愛くて…可愛い夫婦を愛でられると思ってたのに…」
「私の嫁も可愛いですよ…」
 兄もぼそっと呟いた。
「当然だ。可愛い女の子が欲しかったのに…お母さんも昔は可愛かったんだ…それが…まぁ仕方ないが、お前の嫁と凰雅の嫁、二人にお父さんと呼ばれたかったのに…」
「お父さん…あなた方ご夫婦は似たもの夫婦だったんですね」

 結局、仲が良いんじゃないか…と鳳樹はため息をついた。

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山菜の下ごしらえ方法を知らずに大失敗したのは私です(笑)

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Love Piano

おまけ

ある日の由井家