春夏秋冬そして春
「イアン、迅さんが呼んでるよ」
亮だ。
溶鉱炉の中でポリシーもろとも灰になりそうだった俺を生き返らせた、天使の一声。
「秋一さん、大丈夫?」
現実に戻されて、やっと息が出来るようになった。肩でぜーぜー息をしていたのだろう、亮は優しく背中をさすってくれた。
イアンは、チッ、と舌を鳴らしたものの、素直に亮の言葉を受けその場を去っていった。
でもその日、亮は居なかったんだ。
迅と一緒に砂漠の国に行ってしまった後だった。
午前中に二人を見送った後、早々に伝令がやってきた。
「イアンのお別れ会やるから七時にダイニングに集合ってさー」
悠斗にそう言われたものの、あんまり気が進まなかった。亮が助けてくれた日以来、俺は出来るだけイアンと二人きりにならないように気をつけた。ジムに行くときは、最近めっきり美しくなった?山崎さんと一緒。イアンがオフの日に誘われたら、断らない変わりに誰かを一緒に連れて行くことを条件にした。イアンはその気にならなければ気の合う友人だし…下心なく一緒に遊び歩くのはやっぱり楽しかった。
大勢と一緒のお別れ会に行きたくなかったのは、明日から戦場に行くイアンが心配でたまらなくて、ついでに、あんなヤツでも居なくなると思うと寂しい、なんて乙女モードが入ってしまったから…。イアンは俺に関してはめちゃくちゃ敏感だから、普段と違う思いでいることはすぐにばれてしまうだろう。そうなったら…思うつぼだ。だいたいこんな事考えている時点でもう俺はイアンに狂ってしまってる証拠だ。悟られたら、もうお終いだ…ああでも、お別れ会の最中はあいつも抜け出せないだろうし、終わっても人気者だから一晩中誰かに捕まってるだろう。明日は早朝出発だし、そのままみんなと飲み明かしてるかも…
紅くなったり蒼くなったり一人芝居を演じていた午後一時。イアンの部下で精鋭の二人が俺の家にやってきた。
「秋一、イアンが高級絨毯くれるって言うから、お前ももらいに行かないか?」
ペルシャ絨毯とやらだ。イアンのはシルクで出来ていて百万円とかするらしい。いつか何かの助けになるかもしれない!いやまあでも、それはそうとして、形見の一つでも貰っておいたら良いかも…と、ホイホイ付いていく。そう言えばイアンからは何も貰ったことがなかったなあ…物が欲しいワケじゃないけど、貢ぎ物の一つくらいくれても良さそうなのに。意外とケチ?
二人はピンポンを鳴らして勝手に玄関を開けた。こういうとき、ボディーガードは前後を守りつつ部屋に入る。このときも自然にそうなった。でも違ったのは、一人が先に入って俺を引きずり込むと後ろのヤツが俺を突き飛ばし、ふたり揃ってダッシュで外に出て、玄関を押さえ込んだってこと。やばい、と思って必死でドアをあけようとしたけれど、びくともしない。
「うらぎりものーーーーーっ!!あけろーーーっ!!」
叫んでも無駄。がんがんドアを叩いても無駄。 おそるおそる後ろを振り向くと…
部屋の主が笑いながら俺を見下ろしていた。
「お前が俺を忘れないように、俺が迷わずお前の元に還ってこれるように、印をつける。観念しろ」
結果、俺はイアンの巨大なものに後ろを掘られて鳴いて喜んでしまった。
行きたくなかったお別れ会には行けなくなった。
嬲られまくりよがりまくりで、声は枯れるし足腰立たなくなったんだよ! ベッドでぐったりな俺様を置いて、イアンは自分だけさっさと、スッキリした顔で、鼻唄を歌いながらお別れ会に出掛けて行きやがった。
「なるべく早く帰ってくるから、待っていろ」
とかほざきながら肩にキス。
悪態をつこうにも声が出ず、それどころかキスされた肩がぽっと熱くなった。
でもそれは、欲望に火を点すようなキスではなく、そこはかとない安心感を与えてくれるキスで…俺様は不覚にも、なんだか幸せに包まれて眠りに落ちていったのだった。
眠っていたのはほんの二、三時間だったらしい。
なんとなく身体の中がぞわぞわして目が覚めた。
ぼんやり目を開けると、少し離れたところからイアンがこちらを見ている。
「ん…まだ行ってないのか?」
もうお別れ会に行ったと思ったのに。
「さっき引き上げてきた。腹減ってないか?」
なんだ、もう帰ってきたのか…
時計を見るとまだ二十二時だ。
「朝まで帰ってこないかと思った…」
「そんな勿体ないことできるか」
イアンはお別れ会で残った料理を持ち帰ってくれていた。うまそう。昼間暴れ回ったせいでめちゃくちゃ腹が減っている。
俺様は上半身だけ起こすと、獣のように料理に食いついた。イアンが持っていたビールをひったくってごくごく飲み干す。
「お前、その喰い方、色気有るな」
え…。
そっちのほうに行かないように、わざとお下品丸出しで食べているのに…こいつの神経わかんねぇ。
「わざとやってるだろう…」
ばれてるし。
「なあ秋一。お前、なんでそんな食べ方してる?」
それはイアンからエロ光線が出てるからです。なんて言えるわけないだろ?
「もしかして、俺が考えていること分かったか?」
俺様は答えなかった。正直、目が覚める前からなんか妙な雰囲気を感じていたんだ。
「わかんねぇ。腹へったから、喰ってる」
イアンはにたにた笑ってる。嫌な野郎だ。
でも、そのエロ光線は誰にだってばれるだろうよ。どうみてもさかりの付いた獣ってオーラが出てる。
イアンはすっとベッドサイドに近寄り、俺様の横に座った。
あ…雰囲気変わった…?
「あのな、俺はお前が好きだ。いつでもぐちゃぐちゃに抱きたいと思ってる。でもそれは、お前の気持ちを無視して自分勝手に振る舞うことだろ?それが嫌だったからお前に俺の気をそいで欲しかった。俺はそう思ってたんだ」
俺様は食べ物が詰まっているのを忘れて、ぽか〜んと口を開けていたと思う。
イアンが心底嬉しそうな顔をして俺様を見ている。
「汚いぞ秋一。はやく喰ってしまえ」
その別れの夜は一晩中…俺様の肩を抱いて故郷の話しや子供の頃の話しを聞かせてくれた。たまにキスされたけど…
イアンから憑き物が落ちた?俺様としては、昼間のあれで、もう身体ががくがくだったので有り難かった。
マジで我を忘れるくらい感じまくって、気を失いかけたこと数回。その度にイアンは一層深い刺激で俺様を現実に呼び戻す。俺様はそのテクニックに完敗。俺様は何も出来ずに流されっぱなしで、もしかしたらイアンは面白くなかったかな?
全身を何かに包み込まれて、足の先から頭のてっぺんまでぞくぞくして、それに加えて手や指や舌が触れた所から快感が這い上がって…アレがやたらとでかいからかな?挿れられただけでイイところを圧迫されて、いきそうになるし。それこそぐちゃぐちゃにかき回されて前後不覚になっても、絶対にその言葉だけは言わなかった。
愛してる。って。
認めてしまえば良かったのかな?でもやっぱり身体を先に持って行かるのは嫌だ…長い付き合いになるんだし…あれこれ考えながらイアンの話しを聞いていたら…俺様は眠ってしまったらしい。
はっと目を覚ましたら、支度を調えたイアンが側でじっと見つめていた。
「…おはよう。早く起こしてくれたら良かったのに…」
「寝顔を見たことなかったんでな」
おはようの挨拶にしては濃厚なキス。
「もう行くの?」
「十五分だけ時間をやるからシャワー浴びてこい」
う〜ん…動けるかな?
よいしょっと起きあがってみると意外とすんなり起きあがれた。あれれ?
「寝ている間にマッサージしといたから」
おお、なんだかいつもより身体が軽いぞ。
さっさとシャワーを浴びて服を着る。
「秋一、こっちへ来い」
まえから思ってることなんだけど、その命令口調は何様?
でも逆らえない俺様も俺様。
側によると、イアンは俺様が迅から貰った超高級ピアスをはずしやがる。
「ちょ…それは…」
「秋一には俺から貰った物以外身につけて欲しくない」
「物に嫉妬すんな。それ気に入ってるのに」
「こっちのほうが似合う」
そう言ってイアンが差し出したのは真っ赤な石がはまったピアス。石は、どうみても迅のサファイアの方が大きい。ちょっとがっかり。
「ちっせーよ。これも代々伝わる宝石?」
イアンはカラカラ笑いながら頷く。
「そうだ。こっちのサファイアよりよっぽど希少価値がある。大事にしろよ」
イアンは丁寧に俺様の耳にピアスをはめてくれた。
鏡を見たら、小さいけど真っ赤で存在感がある。この色もなんだか俺様によく似合っている。似合ってるから許そう。だって、迅は大金持ちで、イアンは小金持ちくらいだろ?。
「これ、ルビー?」
「いいや。エメラルド」
エメラルドって…緑じゃなかった?
「レッドベリル。赤いエメラルド。赤は私の色だ」
「ふ〜ん。イアンは熱いもんな。赤ってイメージぴったり」
「それから…これも」
もう一つは鍵だ。
「ここの鍵?」
「ああ。好きなときに使って良い」
「…じゃあ、他の男連れ込んでも良いの?」
「やってみろ。もう俺以外の男では満足できないと思うが?」
すっげえ自信。でもまんざら嘘ではないかも。
そのくらい、心地よかった。迅と比べても、もっと気持ちよかった。もし、俺になんの迷いもなくなったらどんな事になるんだろう…
「いつ帰ってくるんだっけ?」
「六月の半ば頃だ」
三ヶ月か…
「ホントに生きたままリーマンになって帰ってくる?」
「当然だ」
イアンの大きな体に抱きすくめられる。俺はこいつの腕の中で生きていきたい。
だから…
「生きたままリーマンになって帰って来る。一生抱きしめて離さないからな」
うん。こいつは俺の考えていることがちゃんと分かるらしい。じゃあ次はどうして貰いたいか、分かるよな?
イアンは俺様の…
「そこじゃねーよ!」
夕べ散々扱かれてしゃぶられて縛り上げられて魂ぬかれたペニスを揉みしだきはじめる。
「やめ…っ!」
「ああ、キスしたかったんだ。間違えたか?だが嫌がってなさそうだ…」
俺様の意思に反してそこはあっという間に熱を持ち、硬度を増し始める…
「イア…もう、じかん…っ」
「三十分進めといた」
「な…っ…ああぁ…っ」
ジーパンのボタンもファスナーもさっさと外され、下着ごと勢いよく剥ぎ取られる。
下半身だけすっぱだかと言うなさけない格好でベッドの上に転がされ、足を開かせられる。朝日の清々しさが俺様の羞恥心を爆発させる。
そんなのお構いなしに、イアンは熱い舌をそこに絡めてきた。
「ああっ…!やめ…っ…んっ」
じゅるじゅると盛大に音を立てながら根本まで銜えこみ、裏筋を激しくこする。あっという間にそこは勢いよく反り返り、蜜をこぼし始めた。
「イアンッ…もう…はぁ…んんっ」
「秋一…」
囁き声と舌の動きが重なりただでさえ恍惚状態なのに、名前を呼ばれた瞬間に伝わったイアンの剥き出しの感情に、押し殺していた本音が口を突いて出そうになる。心の中ではもう何度も我を忘れて叫びまくっているけど。
(あんたが好きだ)
イアンの口がすっと離れ、唾液だか蜜液だかで濡れそぼったそれを今度は手のひらで扱きはじめた。舌は、昨日の行為でまだすこしぷっくりと腫れている後孔を情熱的に責めている。
「イアン…そこ…もうっ…!」
嫌だと言っても聞いてくれるはずはなく…
膝を抱え上げ、イアンは容赦なく猛った雄を突き刺してきた。
「…んああっ!…イアンッ…くるしっ!」
内臓が逆流しそうな圧迫感。息が詰まる。
「イアン…おねがい…はあっんっ…」
突き上げられ、揺すられ、身体がバラバラになりそうで、俺様はイアンにしがみつく。
(愛してる)
そう思った瞬間、燃えるような感情がイアンからあふれ出て全身を包み込む。
「…イアン…あ…はぁっ…んんっ…ん」
「秋一…私は、お前のものだ…お前だけの…」
「もう…だめ…っ…!」
激しさを増した抽挿で、体内を暴れ回っていた俺様の快感の波が出口を求めて押し寄せる。
「……っ!」
もう、声もあがらない…フェードアウトしそうな意識の隅で、イアンのたぎるような迸りを感じた。
「あと五分で準備しろ!」
「誰のせいだよっ!誰の!」
まともに歩けなくなった俺様を風呂場へ担ぎ込み、超特急で事後処理された。
お前が中に出すからだろうが!
普通だったら甘甘な一時を過ごすのだろうけど、俺様達は違っていた。まるで冗談のような一時。
「用意できても俺様はまともに歩けないだろうが…どうするんだよ…こんな状態で見送りに来いってか?」
「任せろ」
そう言うとイアンはバッグパックと俺様を両脇に抱えて地下駐車場まで走る。そこには見送りの部下達はもちろん、迅と亮と巽と悠斗と山崎さんがいたわけだノちくしょう、また噂のネタになるのかよ!
ついでに空港でも思いっきり長くて深いキスを受け、腰を抜かす。屈強な部下達に両脇を抱えられ、引きずるように持ち帰られた俺様だった。