秋一とイアン

春夏秋冬そして春

春の陣
 イアンのキスはめちゃくちゃ熱かった。  
 他の誰とも違っていて、じんわりジワジワぞくぞくと快感が広がって思考が止まり情欲に流される、のではなく。背筋に火柱が立ち、あっという間に下半身が沸騰。
 熱い舌で口の中をかき回され、呼吸も危なくなった。   
 壁に貼り付けにされていなかったら、ドロドロに溶けて床に流れ出していたかも知れない。  
 イアンの部下達からヒューヒューと口笛を吹かれて囃し立てられていなかったら、速攻でパンツを脱いでいたかも知れない。  
 キスの後、新年のカウントダウンはギリギリセーフで無事に終わり、足腰立たなくなった俺様にワインの瓶を握らせ、肩に担いで部屋にお届けしただけでイアンは満足したようだった。  
 部屋に担ぎ込まれてベッドに投げ出された時、引きこもりの弟、冬馬が何事かと覗きに来た。  
 冬馬は俺がゲイだと知って、家族の中でも一番ショックを受けた。
 高校生の時は男と夜遊びばっかりしてたし、大学に入るとすぐに一人暮らしを始めて弟と遊んだ記憶は数えるほどしかない。可愛い弟だとは思うけど十歳も年が離れているので、俺の遊び相手にはちょっと不足だった。それでもかしましい三姉妹達よりはうまく行っていたと思う。  
 迅と知り合ってからは実家どころか下宿にもほとんど帰っていなかったから、冬馬が学校でイジメにあっていることも知らなかった。なんとか頑張って学校には行っているから良いけれど…何かの答えを探してぐるぐるしているようなので生温かく見守っている。  
 どうも、兄はオカマ、と思っているらしく、家では普通だけど外に出ると女装して男と遊んでいるとでも思っているのだろうか。冬馬はイジメられているとは言え、弱々しい感じの子供でもなく、そこらのふて腐れたガキと変わらない。だからこそ、オカマの兄貴が(違うけどな)我慢ならないのかな?小学生相手にオカマとゲイとホモの違いを説明するのもナンなので、放っている。  
 イアンには冬馬がどんな精神状態なのか話していたから、冬馬が見ている前では絶対に怪しい行動はとらない。ベッドで何もされなかったのは冬馬のお陰だろう。
 それからしばらくの間、何事もなく日々は過ぎる。迅と亮は相変わらず胸焼けがしそうなくらいベタ甘で、結婚を前提としたお付き合いをしている巽と悠斗は、胸くそが悪くなるような堂々巡りをしつつ一歩づつ前進。イアンは大晦日のように熱くなることなく、ジムで軽いボディタッチをしてきたり挨拶程度のキスをしたり。  
 そのくらいなら良いよな?  
 正直言ってイアンに興味はある。たぶん、俺はイアンの事が好き。イアンは俺が好き。お互いの気持ちは通じてるんだから付き合っても良いのかもしれない。  
 でも、絶対に譲れないこともある。  
 イアンの仕事は傭兵。お金を貰って人を殺す仕事。相手がどんな悪人でも、どんなのっぴきならない理由があっても、人を殺してはいけない。お国柄、イアンにもいろいろ有るんだろうけどさ…俺がイアンに深入りしなけりゃ良い。  
 深入りしないってことは、以前の俺だったら、適当に付き合うってことで、えっちもしたいときにするってことだった。  
 今は…なにかこう、ただ好きとか嫌いとかじゃなくて、永遠に揺るがない絆で結ばれているような相手を見つけたい。まあそりゃ、身体の相性も大事だろうけど…
 だから、男として、人間としてどんなヤツなのか俺なりに見切るまで、友達の一人として付き合うつもり。  
 イアンは傭兵を辞めてサラリーマンになるから真剣に付き合おうって言ってくれた。でも、他にもまだ知りたいことや話したいことは沢山ある。イアンが傭兵を辞めるまでに、俺も真面目にイアンの事を見てみようと思った。
 でも…友達として見てみたら…イアンはやっぱりただのヤリチ○で…昨年末の少年達の件はカウントしない事にしてやったが、今年に入って、俺と真面目に付き合わないかとか言っておきながら、また違う少年達を部屋にすっぱだかで住まわせて居ることを発見。イエローカードを切っておいた。
「あと二枚で俺の人生から退場させるからな!」  
 こっそり外で遊ぶならまだしも、家に住まわせるなんて言語道断。しかも二人。前回とは違う子達だし。
「あと二枚…ってことはあと一回はセーフ?」  
 悪びれもせず、それどころかニヤニヤ笑いながら言うかー!
「一回でも百回でも、好きなようにすれば?俺には…関係ないから」
 きっと、こいつの『真面目に付き合う』ってのは、俺が考えてるのと違うんだ。
 一緒に馬鹿言ったり騒いだりするのは楽しいし、友達としては最高なんだけどな。人殺し辞めてリーマンになってくれたら、もっと良い友達になれるのかな?
 ああ、やばい。寂しいとか思ったよ、今。
「秋一と付き合うようになったらきっぱり辞める」
 ンな事言っても… 
 付き合いたいって事は、俺のことが好きなんだろ?普通、好きなヤツに遊びの現場見られて開き直るか?言い訳くらいしてもいいじゃん?
 イアンのあのキス。
 どうしても忘れられない。
 でも、流されるのも嫌だ。
 見た目とか最高に好きなんだ。だから、他のことに目をつぶって欲情に流されて、後で後悔したくないんだ。
 剛胆な性格もそれに見合った容姿も、俺のツボに嵌ってる。
 俺の気持ちがなし崩しに恋に変わる前に、あのキスの感触を忘れてしまえたらいいのに。
「あのさ、俺イアンのこと好きだよ。だけど、今のままだったら友達以上になりたくない」
「今のまま?」
「うん。今はさ、まだ付き合ってるワケじゃないからそんなに厳しいこと言わないけど、遊ぶなら、俺の目の届かないところでやってくれ。俺、遊び人嫌いなんだ」
「言ってること矛盾してないか?」
 矛盾…
「遊び人は嫌いなんだろう?」
「嫌いだ」
「俺は遊び人に見えるんだろう?」
「見える」
「じゃあなんで俺が好きなんだ?さっき、好きって言ったろう?」
「言ったけど…」
 なんかちょっと俺、説明不足?つうか、イラン人なのに日本語分かりすぎだよ、あんた。
「人殺しで、遊び人で、でも好きって言えるのか?」
「友達として好きってこと。遊び人や人殺しとは、恋人にはなれない」
「恋人が陰で浮気して人殺しするのはオッケー?」
「冗談やめろ」
「分かった。では本音を教えよう。俺は六月くらいまで人殺しをやる。浮気もやる。人殺しは、契約しちまったから。浮気は、お前を抱けないから」
 う…
「少しは我慢しようとか思わないわけ?」
「できないな。お前以外の者では満足できない。だが、あいつらを置いておかないと、お前の意思に関係なく喰ってしまいそうになるから仕方なく置いてるんだ」
 イアンの目が、あのキスをしたときのような、ぎらぎらとした光を放ち始める。オヤジの脂ぎった感じじゃない、獲物を捕らえた猛獣のような精悍で生気溢れた目。俺は全身が熱くなり、その上、金縛りにあったように動けなくなった。こいつに喰われたいとさえ思った。どうでもいいから身体を駆けめぐる炎のような情動を何とかしてくれと思った。たぶん、みっともないくらい顔が紅潮していたと思う。
 なんとか視線だけずらす。
「抱きたい…だけ…なのか?」
 言葉すらいつものように出てこない。心臓が暴走して息が苦しい。
「誰よりも愛しているから抱きたい。それが悪いことか?」
 どぎつい告白は、溶鉱炉の中に放り込まれた感じ。熱い空気で呼吸ができなくなり、その場にくずおれそうになったとき、天使が助けてくれた。

「イアン、迅さんが呼んでるよ」
 
 亮だ。
 溶鉱炉の中でポリシーもろとも灰になりそうだった俺を生き返らせた、天使の一声。
「秋一さん、大丈夫?」
 現実に戻されて、やっと息が出来るようになった。肩でぜーぜー息をしていたのだろう、亮は優しく背中をさすってくれた。
 イアンは、チッ、と舌を鳴らしたものの、素直に亮の言葉を受けその場を去っていった。
 
 でもその日、亮は居なかったんだ。
 迅と一緒に砂漠の国に行ってしまった後だった。
 午前中に二人を見送った後、早々に伝令がやってきた。
「イアンのお別れ会やるから七時にダイニングに集合ってさー」
 悠斗にそう言われたものの、あんまり気が進まなかった。亮が助けてくれた日以来、俺は出来るだけイアンと二人きりにならないように気をつけた。ジムに行くときは、最近めっきり美しくなった?山崎さんと一緒。イアンがオフの日に誘われたら、断らない変わりに誰かを一緒に連れて行くことを条件にした。イアンはその気にならなければ気の合う友人だし…下心なく一緒に遊び歩くのはやっぱり楽しかった。
 大勢と一緒のお別れ会に行きたくなかったのは、明日から戦場に行くイアンが心配でたまらなくて、ついでに、あんなヤツでも居なくなると思うと寂しい、なんて乙女モードが入ってしまったから…。イアンは俺に関してはめちゃくちゃ敏感だから、普段と違う思いでいることはすぐにばれてしまうだろう。そうなったら…思うつぼだ。だいたいこんな事考えている時点でもう俺はイアンに狂ってしまってる証拠だ。悟られたら、もうお終いだ…ああでも、お別れ会の最中はあいつも抜け出せないだろうし、終わっても人気者だから一晩中誰かに捕まってるだろう。明日は早朝出発だし、そのままみんなと飲み明かしてるかも…
 紅くなったり蒼くなったり一人芝居を演じていた午後一時。イアンの部下で精鋭の二人が俺の家にやってきた。
「秋一、イアンが高級絨毯くれるって言うから、お前ももらいに行かないか?」
 ペルシャ絨毯とやらだ。イアンのはシルクで出来ていて百万円とかするらしい。いつか何かの助けになるかもしれない!いやまあでも、それはそうとして、形見の一つでも貰っておいたら良いかも…と、ホイホイ付いていく。そう言えばイアンからは何も貰ったことがなかったなあ…物が欲しいワケじゃないけど、貢ぎ物の一つくらいくれても良さそうなのに。意外とケチ?
二人はピンポンを鳴らして勝手に玄関を開けた。こういうとき、ボディーガードは前後を守りつつ部屋に入る。このときも自然にそうなった。でも違ったのは、一人が先に入って俺を引きずり込むと後ろのヤツが俺を突き飛ばし、ふたり揃ってダッシュで外に出て、玄関を押さえ込んだってこと。やばい、と思って必死でドアをあけようとしたけれど、びくともしない。
「うらぎりものーーーーーっ!!あけろーーーっ!!」
 叫んでも無駄。がんがんドアを叩いても無駄。  おそるおそる後ろを振り向くと…
 部屋の主が笑いながら俺を見下ろしていた。
「お前が俺を忘れないように、俺が迷わずお前の元に還ってこれるように、印をつける。観念しろ」

 結果、俺はイアンの巨大なものに後ろを掘られて鳴いて喜んでしまった。
 行きたくなかったお別れ会には行けなくなった。
 嬲られまくりよがりまくりで、声は枯れるし足腰立たなくなったんだよ!  ベッドでぐったりな俺様を置いて、イアンは自分だけさっさと、スッキリした顔で、鼻唄を歌いながらお別れ会に出掛けて行きやがった。
「なるべく早く帰ってくるから、待っていろ」
 とかほざきながら肩にキス。
 悪態をつこうにも声が出ず、それどころかキスされた肩がぽっと熱くなった。
 でもそれは、欲望に火を点すようなキスではなく、そこはかとない安心感を与えてくれるキスで…俺様は不覚にも、なんだか幸せに包まれて眠りに落ちていったのだった。
 眠っていたのはほんの二、三時間だったらしい。
 なんとなく身体の中がぞわぞわして目が覚めた。
 ぼんやり目を開けると、少し離れたところからイアンがこちらを見ている。
「ん…まだ行ってないのか?」
 もうお別れ会に行ったと思ったのに。
「さっき引き上げてきた。腹減ってないか?」
 なんだ、もう帰ってきたのか…
 時計を見るとまだ二十二時だ。
「朝まで帰ってこないかと思った…」
「そんな勿体ないことできるか」
 イアンはお別れ会で残った料理を持ち帰ってくれていた。うまそう。昼間暴れ回ったせいでめちゃくちゃ腹が減っている。
 俺様は上半身だけ起こすと、獣のように料理に食いついた。イアンが持っていたビールをひったくってごくごく飲み干す。
「お前、その喰い方、色気有るな」
 え…。
 そっちのほうに行かないように、わざとお下品丸出しで食べているのに…こいつの神経わかんねぇ。
「わざとやってるだろう…」
 ばれてるし。
「なあ秋一。お前、なんでそんな食べ方してる?」
 それはイアンからエロ光線が出てるからです。なんて言えるわけないだろ?
「もしかして、俺が考えていること分かったか?」
 俺様は答えなかった。正直、目が覚める前からなんか妙な雰囲気を感じていたんだ。
「わかんねぇ。腹へったから、喰ってる」
 イアンはにたにた笑ってる。嫌な野郎だ。
 でも、そのエロ光線は誰にだってばれるだろうよ。どうみてもさかりの付いた獣ってオーラが出てる。
 イアンはすっとベッドサイドに近寄り、俺様の横に座った。
 あ…雰囲気変わった…?
「あのな、俺はお前が好きだ。いつでもぐちゃぐちゃに抱きたいと思ってる。でもそれは、お前の気持ちを無視して自分勝手に振る舞うことだろ?それが嫌だったからお前に俺の気をそいで欲しかった。俺はそう思ってたんだ」
 俺様は食べ物が詰まっているのを忘れて、ぽか〜んと口を開けていたと思う。
 イアンが心底嬉しそうな顔をして俺様を見ている。
「汚いぞ秋一。はやく喰ってしまえ」
 その別れの夜は一晩中…俺様の肩を抱いて故郷の話しや子供の頃の話しを聞かせてくれた。たまにキスされたけど…
 イアンから憑き物が落ちた?俺様としては、昼間のあれで、もう身体ががくがくだったので有り難かった。
 マジで我を忘れるくらい感じまくって、気を失いかけたこと数回。その度にイアンは一層深い刺激で俺様を現実に呼び戻す。俺様はそのテクニックに完敗。俺様は何も出来ずに流されっぱなしで、もしかしたらイアンは面白くなかったかな?
 全身を何かに包み込まれて、足の先から頭のてっぺんまでぞくぞくして、それに加えて手や指や舌が触れた所から快感が這い上がって…アレがやたらとでかいからかな?挿れられただけでイイところを圧迫されて、いきそうになるし。それこそぐちゃぐちゃにかき回されて前後不覚になっても、絶対にその言葉だけは言わなかった。
 愛してる。って。
 認めてしまえば良かったのかな?でもやっぱり身体を先に持って行かるのは嫌だ…長い付き合いになるんだし…あれこれ考えながらイアンの話しを聞いていたら…俺様は眠ってしまったらしい。
 はっと目を覚ましたら、支度を調えたイアンが側でじっと見つめていた。
「…おはよう。早く起こしてくれたら良かったのに…」
「寝顔を見たことなかったんでな」
 おはようの挨拶にしては濃厚なキス。
「もう行くの?」
「十五分だけ時間をやるからシャワー浴びてこい」
 う〜ん…動けるかな?
 よいしょっと起きあがってみると意外とすんなり起きあがれた。あれれ?
「寝ている間にマッサージしといたから」
 おお、なんだかいつもより身体が軽いぞ。
 さっさとシャワーを浴びて服を着る。
「秋一、こっちへ来い」
 まえから思ってることなんだけど、その命令口調は何様?
 でも逆らえない俺様も俺様。
 側によると、イアンは俺様が迅から貰った超高級ピアスをはずしやがる。
「ちょ…それは…」
「秋一には俺から貰った物以外身につけて欲しくない」
「物に嫉妬すんな。それ気に入ってるのに」
「こっちのほうが似合う」
 そう言ってイアンが差し出したのは真っ赤な石がはまったピアス。石は、どうみても迅のサファイアの方が大きい。ちょっとがっかり。
「ちっせーよ。これも代々伝わる宝石?」
 イアンはカラカラ笑いながら頷く。
「そうだ。こっちのサファイアよりよっぽど希少価値がある。大事にしろよ」
 イアンは丁寧に俺様の耳にピアスをはめてくれた。
 鏡を見たら、小さいけど真っ赤で存在感がある。この色もなんだか俺様によく似合っている。似合ってるから許そう。だって、迅は大金持ちで、イアンは小金持ちくらいだろ?。
「これ、ルビー?」
「いいや。エメラルド」
 エメラルドって…緑じゃなかった?
「レッドベリル。赤いエメラルド。赤は私の色だ」
「ふ〜ん。イアンは熱いもんな。赤ってイメージぴったり」
「それから…これも」
 もう一つは鍵だ。
「ここの鍵?」
「ああ。好きなときに使って良い」
「…じゃあ、他の男連れ込んでも良いの?」
「やってみろ。もう俺以外の男では満足できないと思うが?」
 すっげえ自信。でもまんざら嘘ではないかも。
 そのくらい、心地よかった。迅と比べても、もっと気持ちよかった。もし、俺になんの迷いもなくなったらどんな事になるんだろう…
「いつ帰ってくるんだっけ?」
「六月の半ば頃だ」
 三ヶ月か…
「ホントに生きたままリーマンになって帰ってくる?」
「当然だ」
 イアンの大きな体に抱きすくめられる。俺はこいつの腕の中で生きていきたい。
 だから…
「生きたままリーマンになって帰って来る。一生抱きしめて離さないからな」
 うん。こいつは俺の考えていることがちゃんと分かるらしい。じゃあ次はどうして貰いたいか、分かるよな?
 イアンは俺様の…
「そこじゃねーよ!」
 夕べ散々扱かれてしゃぶられて縛り上げられて魂ぬかれたペニスを揉みしだきはじめる。
「やめ…っ!」
「ああ、キスしたかったんだ。間違えたか?だが嫌がってなさそうだ…」
 俺様の意思に反してそこはあっという間に熱を持ち、硬度を増し始める…
「イア…もう、じかん…っ」
「三十分進めといた」
「な…っ…ああぁ…っ」
 ジーパンのボタンもファスナーもさっさと外され、下着ごと勢いよく剥ぎ取られる。
 下半身だけすっぱだかと言うなさけない格好でベッドの上に転がされ、足を開かせられる。朝日の清々しさが俺様の羞恥心を爆発させる。
 そんなのお構いなしに、イアンは熱い舌をそこに絡めてきた。
「ああっ…!やめ…っ…んっ」
 じゅるじゅると盛大に音を立てながら根本まで銜えこみ、裏筋を激しくこする。あっという間にそこは勢いよく反り返り、蜜をこぼし始めた。
「イアンッ…もう…はぁ…んんっ」
「秋一…」
 囁き声と舌の動きが重なりただでさえ恍惚状態なのに、名前を呼ばれた瞬間に伝わったイアンの剥き出しの感情に、押し殺していた本音が口を突いて出そうになる。心の中ではもう何度も我を忘れて叫びまくっているけど。
(あんたが好きだ)
 イアンの口がすっと離れ、唾液だか蜜液だかで濡れそぼったそれを今度は手のひらで扱きはじめた。舌は、昨日の行為でまだすこしぷっくりと腫れている後孔を情熱的に責めている。
「イアン…そこ…もうっ…!」
 嫌だと言っても聞いてくれるはずはなく…
 膝を抱え上げ、イアンは容赦なく猛った雄を突き刺してきた。
「…んああっ!…イアンッ…くるしっ!」
 内臓が逆流しそうな圧迫感。息が詰まる。
「イアン…おねがい…はあっんっ…」
 突き上げられ、揺すられ、身体がバラバラになりそうで、俺様はイアンにしがみつく。
(愛してる)
 そう思った瞬間、燃えるような感情がイアンからあふれ出て全身を包み込む。
「…イアン…あ…はぁっ…んんっ…ん」
「秋一…私は、お前のものだ…お前だけの…」
「もう…だめ…っ…!」
 激しさを増した抽挿で、体内を暴れ回っていた俺様の快感の波が出口を求めて押し寄せる。
「……っ!」
 もう、声もあがらない…フェードアウトしそうな意識の隅で、イアンのたぎるような迸りを感じた。
「あと五分で準備しろ!」
「誰のせいだよっ!誰の!」
 まともに歩けなくなった俺様を風呂場へ担ぎ込み、超特急で事後処理された。  
 お前が中に出すからだろうが!
 普通だったら甘甘な一時を過ごすのだろうけど、俺様達は違っていた。まるで冗談のような一時。
「用意できても俺様はまともに歩けないだろうが…どうするんだよ…こんな状態で見送りに来いってか?」
「任せろ」
 そう言うとイアンはバッグパックと俺様を両脇に抱えて地下駐車場まで走る。そこには見送りの部下達はもちろん、迅と亮と巽と悠斗と山崎さんがいたわけだノちくしょう、また噂のネタになるのかよ!
 ついでに空港でも思いっきり長くて深いキスを受け、腰を抜かす。屈強な部下達に両脇を抱えられ、引きずるように持ち帰られた俺様だった。