亮の日記

しつじの悠木さんに、書き方を習いました。できるだけたくさん書くことをすすめられたので、日記を書くことにしました。朝の紅茶は定番のアッサムティー。
だんなさまは少し濃い目に淹れ、ミルクをちょっぴり加えた物がお好き。

シャワーを浴びられた後、髪をセットする前の若々しい姿で食卓に着いて、最初に口にされます。最初の一口の後、軽くため息をはかれたら、美味しく淹れられた証拠なのですって。
今日は僕が淹れたのですが、ため息をはかれた時はとてもうれしかった。
(最初から悠木が淹れた紅茶より美味しかったよ。心がこもっていたんだね)

お着替えは悠木さんが手伝います。僕ではまだ背が低くてシャツや上着を上手く着せられないのです。それに、僕が近くにいるとごきげんを損ねることが多いので…。お見送りするときは、お車が少し動き出してから外にでます。それまでは扉の内側で、子供のころにいただいたペンダントに願いを込めます。(機嫌が悪かったわけではない…どう接して良いか分からなかったんだ…子どもの頃よりずっと美しくなって、本家で酷い目にあっていたにもかかわらず心に一点の曇りも無く…憎しみや怒りしか感じなくなっていた私は、亮の純粋さに戸惑っていたんだよ)

「今日もお元気でお仕事がうまくいきますように」

そして、車が門をでていくまで後ろ姿を見送ります。
昼間は、だんなさまのお部屋の掃除をしたあと、デザート作りを手伝いました。ラベンダーのシャーベットのビターチョコレート添えです。ラベンダーを煮出すのと、チョコレートを薄く削るのを手伝いました。かくはんしたりするのはむずかしいので、まださせてもらえません…
夜、残念なことにだんなさまは帰りが遅く、軽いお食事をとっただけでデザートは召し上がりませんでした。明日の僕のおやつになりそうです…
(非常に残念だ…)

お風呂を使われたあとは、とくべつなことがないかぎり、悠木さんではなく、僕がお世話をします。だんな様は静かにごほんを読むか、パソコンをされるかなので、特におへやに行く用事はありません。おやすみになられた後、バスルームに置かれたせんたくものを取りに行き、かるくお布団をなおして、心の中でお休みなさいを言います。
だんな様の寝顔はむかしと同じです。とても優しくて、安良かで、僕の心を安心させてくれます。
(寝顔を見ていたの?お前が側にいるとゆっくり休めるのだよ)

迎えに来てくれて、有り難う。僕が一番ほしかったものを与えてくれただんなさまが、ずっと幸せでいられますように。祈るしかできない僕を、もう少しだけ側にいさせてください。(払い下げられたとか復習のためとか、酷いことしか言わなかったのに…自分が吐いた言葉を思い出すと胸が詰まされる。お前が戻ってきてから、全てが少しずつうまくいくようになった。私の心を支配していた憎悪も薄れ、世界がよりはっきり見えるようになった。仕事も順調で余裕が生まれ、伯父の束縛にも抵抗する気力が沸いた。全て亮が私のために祈ってくれたからだね。私を見捨てないでいてくれて、有り難う…)