亮の日記
だんな様にお客様の事を尋ねると、僕より年下の少年なのですって。お仕事が終わってから巽さんが連れてきてくださるそうです。軽いお夜食を用意することにしました。
その男の子はあまり見たことがない格好をしていて、大きなサングラスとマスクをしていたのでどんな顔をしているのかも分かりませんでした。
立花悠斗君、というのだそうです。ずっとパソコンの画面を見つめていて口数が少なくて、見た目もなんですが、とても優秀な少年なのですって。いつの間にか本家のセキュリティに?侵入して?(それがどういうことなのか僕には全く分かりません)、あっという間にお母様の映像を映し出してくれました。
懐かしいお母様の今の姿を見ることが出来て、もうどうしようもなく嬉しくて…涙が出るときは辛いときで、だからといって泣いても状況は悪くなるだけと思っていたのに…嬉しくても涙が出るんですね。みっともなくぽろぽろ涙が流れる瞳を、だんな様が優しく隠してくださって…その気遣いがうれしくて…笑わなきゃ、と思ったらだんな様が「ここは笑う場面だぞ」と。
最近少しだけ分かったことがあります。それはだんな様がいつも僕の気持ちをくみ取って、僕が思うより先に言葉や手を尽くしてくれる事。今までだって具合が悪い時やどうしようか迷っているとき、うまくいかなくて困っている時、厳しい言葉や態度で僕がやるべき事を教えて下さいました。
今まで通りで良いのに、最近では厳しさは何処へやら、幼い子供のように扱われるから…視線も声も表情も何もかも全てが優しさに溢れていて、温かく包み込んでくれて…僕には決して向けられることはないと思っていたけれど、穏やかな日常を過ごして欲しいと思ったその世界の中に、僕自身が存在しても良いのだとしたら…だんな様の前に跪いて感謝しても足りないくらいです。
悠斗君は見た目がなんでしたが、サングラスやマスクを取るととっても可愛らしい少年でした。悠斗君の素顔を見た巽さんの時間が一瞬止まったようですよ?巽さんにもやっと春が来るのでしょうか…
だんな様から、秋一さんも巽さんも、僕に出会った人々は皆、僕に惹かれるものだから、嫉妬で気が狂いそうだったとお聞きしました。僕はみんなが好きです。生まれながらの悪人はいないと思っています。だから、僕がどれだけみんなを好きで、幸せな生活を送って欲しいと願っているか分かって欲しいです。笑顔は人を幸せにしますよね?出来るだけ多くの人に笑顔を贈りたいと思っているのです。
だんな様は…秋一さんが言っていましたが、だんな様は僕の特別なのだそうです。それは僕にも何となく分かります。だんな様の側で過ごす時間が増えるほど、僕自身の心が元気になるというか…抱き締められたりキスされたりは恥ずかしいけれど…揺るがない強さのようなものを感じるようになりました。もう、本家にいた頃のように何も出来ない自分に戻りたくない。
もしだんな様にとっても僕が特別な存在になれれば、もっともっと、色々なことが出来そうな気がします。
どうすればいいのかな?
まだ分からないことだらけです。
ひとかけらの迷いもなく、僕の大好きな人達を光溢れる世界に導くことができるなら…
あ、だんな様が寝室に帰っていらっしゃいました。だんな様は僕が日記を書いている様子を、時々のぞき込むようにご覧になります。
緊張して、字が歪んじゃう…