亮の日記

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今朝、だんな様はやはりご機嫌斜めでした。きっと昨夜は煩くて眠れなかったのだと思います…紅茶も一口しか飲まれなかったし、シャツもネクタイも僕が選んだのではない物に着替えてお出かけになりました。そのせいで少し時間に遅れそうになってしまいました…

「あの意地っ張りは一人で取り残されたものだから拗ねてるんだよ。亮がきにすることはない。それより今夜は私だけ遅くなるから、9時になったら仕事は終えてゆっくりしなさい」

巽さんだけ、接待があるのですって。台湾からのお客様で、美味しいお茶をお土産にくださったお礼なのだそうです。明日、お屋敷にも持ってきてくれるそうで、とても楽しみです。日本茶や紅茶とはまたお作法も違うので上手に淹れられるかどうか心配です。

 だんな様は、夜にはご機嫌も治っていました。僕は仕事が一段落着いた後、悠木さんの書斎で中国茶のお作法について書かれた本を読んでいました。暫くすると板井さんが、だんな様がお茶を飲みたいとおっしゃっている事を伝えに来てくれました。僕は直ぐに準備してお持ちしました。今夜は秋一さんもご実家に用があるとかでいらっしゃらないので、だんな様はお一人です。昨夜のお詫びも兼ねて、今夜はゆっくりして頂くためにラベンダーがブレンドされたお茶をお持ちしました。

お部屋に入るとだんな様はお風呂を使われた後のようで、優しい石けんの香りが漂ってきました。まだ髪をしっかり乾かしていらっしゃらないのか、雫が垂れていたので、お茶の支度が終わってからバスルームへタオルを取りに行きました。この一ヶ月くらい、だんな様に話しかけたことがなかったのでタオルを手渡すときにとても緊張してしまいました。

「あの…髪を…乾かさないと、お風邪をひいてしまいます…」

普通のことを言ったつもりだったけれど、だんな様は差し出されたタオルを暫く見つめて、それから受け取って首に巻かれました。それでも良いのですけど、ちょっと違うような…久しぶりに話しかけたので、自分でも何を言ったか覚えてません…日本語を話していたかどうかも分かりません(僕は時々外国語で話しているそうです…)

巽さんが帰ってこられた車の音がしたので、僕はそそくさとだんな様のお部屋を後にしました。
でも、とても緊張したけど、嬉しかったです。