亮の日記

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 巽さんの目をかいくぐりながら夜中に刺繍をしていたら、目がとても疲れ霞んできました。時々目を擦っていたら秋一さんに見とがめられ、久実先生から目薬を処方されてしまいました。初目薬です。とても気持ちいいんですね。使用制限は無いと久実先生がおっしゃったので気が付いたときに差していたら、巽さんが、
「目がうるうるしていて可愛いね」
とおっしゃて…みんな目薬を買ってきて、一日中目をキラキラさせていました。

 一人だけ、だんな様だけご機嫌斜めになったのですが…

 今日は巽さんだけ早く帰ってこられたので、秋一さんと巽さんと僕で「泣き真似ごっこ」をしていました。目薬をつかって…
 秋一さんの演技がとてもお上手だったので笑い転げていたら、だんな様が帰っていらっしゃいました。お出迎えの時、秋一さんは沢山目薬を差して泣いた振りをしながらだんな様に殴りかかっていったのです。

「浮気してきたんだろっ!!」

 なんて、あり得ないことを言いながら…

 だんな様は今夜、お仕事先の方と銀座のクラブでお酒を飲んでいたのですって。そこには美しい女性が沢山いるのだそうです。お酒の匂いに混じって甘い香水の香りも少し移っていたので、だんな様をご存じない方でしたら、そうかな…とも思うでしょう。
 秋一さんはぽろぽろ目薬を零しながら、だんな様の胸に縋り付いて泣いておられます。だんな様は困ってしまわれたご様子。でも、疑われて怒ったりはしていません。なぜその後ご機嫌斜めになられたかというと…

 僕が堪えきれずに笑ってしまったからなのです。
 本当に申し訳ないことをしてしまいました。でも秋一さんの演技が面白くて…修羅場というのですか、そんな場面で僕が笑ったので、だんな様は怒ってしまわれたご様子。秋一さんと巽さんが訳を話して目薬を見せたのですけど、だんな様はますますご機嫌が悪くなって…

 ごめんなさい…もうしません。