亮の日記

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 今日は日曜日でした。とてもお天気が良く、朝から涼しい木陰で団らんをしていました。でも途中からだんな様と秋一さんが喧嘩を始められて…まだお盆に旅行へ行くことを秋一さんが嫌がっているのです。僕はどうすればいいのか分からず、黙って給仕をしていましたが…

 だんな様が先に部屋へ戻られた後、秋一さんが僕に言いました。
「ほとんど毎日一緒にいるのに今更二人で旅行って言われてもね。俺、バイトもあるし。それに、ここから出してもらえない亮が居る前で旅行の話しを振るなんて最低。俺、亮に外の世界を沢山見せてあげたい。旅行に行くなら亮も一緒じゃないと嫌だ」

 お気持ちはとても嬉しかった。でも、僕のことで喧嘩はして欲しくないです。秋一さんが僕の分まで色々なところへ行ってお話しを聞かせてくれれば良いのに…

「そんなのじゃ全然ダメ。空気とか色とか雰囲気は感じ方も人それぞれだし、百聞は一見にしかずって言うだろ?亮が好きな食べ物とかお菓子とか名産品とかもその場で食べなきゃダメなんだ。あの、頑固者の大バカ野郎!俺、いつかきっと亮をここから出してやるからな!」
 
 空気感や雰囲気が違うことは僕にも分かります。でも、僕はこの屋敷の中だけでも十分楽しいです。時々、予期しない訪問とかあるので飽きないし…秋一さん、巽さん、板井さん、メイドの女の子達、みんなが僕に外のことを教えてくれたり面白い物を持ってきてくれたりするので…
 僕がどうして良いか分からずにションボリしていると…
 みんなが悪戯を考え始めました。

 日曜日には訪問販売の人や電話が掛かってきます。板井さんとメイドの女の子が対応します。たまに僕が練習ついでに対応します。それをだんな様に対応してもらおうと言うことになりました。

 今日だけで五件ほど勧誘の電話があり…その都度だんな様に電話を替わると、三件目辺りからだんな様の口調がぞんざいになってきました。最後には。うちは超貧乏で明日の食事の心配までしなくてはいけない。そんなに儲かるのならお前が儲けた上がりを貸してくれ、だとか、うちはヤクザだとか言い始め…だんな様にお話しを作る能力があったなんて、新しい発見です。やはり素晴らしい方なんですね。

 夕食が終わった頃また一件電話があり、たまたま僕が受話器を取ると…だんな様が睨んでいます。牛乳配達の電話だったので丁寧にお断りしていると、だんな様がもの凄い形相で近寄ってきて僕の手から受話器を取り上げ
「どこのメーカーだ……うちは雪野だ!」
 とおっしゃって電話を切られました。
 メリーミルクの勧誘だったのに…
 メリーミルクは雪野乳業の傘下です。僕はだんな様が知らないことを知っているのがちょっと嬉しかったです。