その日から合格発表の日まで、二人は常に一緒にいた。一月が彼女の所に行くこともなく、ほぼ毎日どちらかの家に泊まっていた。自分たちが離れがたいと言うこともあったし、特に一月の家族は景也の家族でもあったから、一月の両親も帰れとは言わず、景也の叔父さんまで泊まり込んで毎晩賑やかだった。
 合格発表の前の日からまた、二人で東京に行き、合格していたときはそのまま留まり、景也の新しい部屋を探す事にしていた。ただ、誰もが合格すると思っていて、新しい部屋の候補も既に上がっている。楠原社長が最初に建てたマンション。かなり古くなっているが、頑丈に出来ていて、広くて安いのだ。社長が若い頃の記念だからと言ってわざわざ買い上げた部屋を格安で貸してくれるのだそうだ。
 いよいよその日、二人で手を繋いで合格発表を見て、大して驚かずに帰って行った景也と一月は、入学する前からかなり有名な公認カップルになってしまっていた。 

「広いっ!」
 その部屋に入った第一声がそれだった。2LDKで80㎡は学生には勿体ない。叔父が使っていた製図道具一式も何故か既にそこに置いてあり、あとは家具をいくつか揃えるだけだった。
「ちょっと古いけど、電化製品も全部使えるってさ。なんにも買わなくて良いね…助かっちゃった」
「ああ。けい、こっち来てみろよ」
 奥の扉を開けるとそこは寝室のようで、ベッドの上に何やらプレゼントのような、リボンを掛けた大きな紙袋が幾つか置いてある。
「なんだろ?」
 ベッドの上に腰掛けて、袋を手にすると、倉石さんと克彦さんからのカードが添えられていた。
『卒業&入学おめでとう』
 と書かれたカードを脇に避け、紙袋をごそごそ開けてみると…
 色違いのパジャマ、二人のネーム入りタオルとバスローブ、マグカップに歯ブラシに、ごちゃごちゃした小物がなんでもペアで入っている。
 その中に、各自に宛てた小さな袋が入っていて…
 景也は開けるなり、袋を閉じてしまった。一月は笑いながらのぞき込んでいる。
「けい、そっちの見せて」
 くすくす笑いながら手を差し出すと、景也は大急ぎで紙袋を握りしめ、素早く後ろに隠した。
「い、いつきの先に見せてよ…」
「良いよ」
 一月が紙袋の中からプラスチックボトルを取りだし、景也に手渡した。
「ココナッツミルク・ローション…?一月、お肌の手入れなんかしてたっけ…?」
 一月は至極真面目な顔をして答えた
「…いや…今夜から使う」
 本当はおかしくて仕方がなかったけれど、何でおかしいのか分かって無さそうな景也に説明するのも楽しみが減るような気がして、その時が来るまで待っていようと思った。
「僕も使った方が良いのかなぁ…」
 真剣に悩んでいる姿が可愛らしく、一月の欲情に火をともす。
「これ早く全部片づけて、ゆっくりしよう」
「うん」

 
 もう春だと言ってもまだ寒く、バルコニーで夜景を眺めていたら景也が小さくくしゃみをした。
「けいのくしゃみ、相変わらず可愛いな」
 っくちっ、としか言わないのでくしゃみなんだか咳なんだか分からない。
 返事をしようにも2発目が出そうで構えていたら、一月がそっと抱き締めてくれた。
「部屋に入るぞ」
 3発目を終わってやっと落ち着いた景也は、大人しく一月に抱かれていた。告白されて以来、何度もこうやって抱き締められ、キスも沢山して…それ以上のことを早くしたいと思わなかった、と言えば嘘になる。景也は特にそっち方面には疎かったので、一月に任せようと、なるべく考えないでいたけれど…
「あのさ、一月」
 キスの合間に景也は待ったをかけた。
「ん?」
「一月、前に彼女なんかいないって…」
 ホワイトデーのお返しがどうしたこうしたで、そんな話をした。
「いなかったよ」
「でも…時々、ちがうシャンプーの匂いとかしてた…」
「あ…気がついてなかった…まあ、そう言うこともあったな…でもな、好きになった女はいなかったよ」
「好きじゃないのに、付き合ってたの?」
「まあそれは……男の事情??」
 まさかそんな事を言われるとは思っていなかった。景也だって男なので事情は分かる。たまには言うことを聞いてくれない身体を持て余していたけど、それは一月の事を考えているときにしか起こらなかった。好きでもない女の子とそう言うことが出来るのだろうか…
「けい、俺はけいがずっと欲しくてたまらなかった…気持ちとか身体とか鎮めてからじゃないと何するか分からない状態で…んで、まあその辺の女の子ナンパしまくってた…」
 その辺の事情も良くわからないけど、身体だけの関係なんて、とてもじゃないけど景也には理解できない。
「けい、ごめんな。嫌な気分にさせたみたいだな…そんな俺が嫌ならけいには…しないから…けいが側にいてくれるだけで良い。心が繋がっているだけで満足なんだ…」
 景也もそれは同じだが…ちょっとは、興味だって、ある。
「一月が…嫌なら…しなくても…」
 語尾がはっきりしないのは拗ねているのじゃなくて…さっきから「する」とか「しない」とかいう会話が恥ずかしくて尻すぼみになっているのだ…
「俺は嫌じゃないよ」
 すっと引き寄せられ、頬をすり寄せてくる。一月は時々猫のようにこうして頬をすり寄せたり鼻をすり寄せたりするようになった。子供っぽいけれど、景也はとても好きだった。
「一月…」
 そうして最後は深くて甘い口づけに変わる。
 愛しくて心が破裂しそうだ。あんな話をしたから鼓動も速くなり、どくどく脈打っているのが分かる。
「ん…ん…」
 

 一月は唇を離すと景也を抱き上げた。急なことでびっくりした景也は、一月の首にしがみついてしまった。
「一月、なにっ!?」
「ふふ。今夜は初夜だからね…ベッドまで運ばなきゃ」
「そんなこと…っ…言わなくてもいいじゃん…」
 恥ずかしくなったけれど、落とされても困るし、ぎゅっと抱きつくしかない。
 景也をベッドにそっと横たえ、一月は体重が掛からないように気をつけながら馬乗りになる。そうしてお揃いのパジャマのボタンを一つずつゆっくり外していった。恥ずかしいのか、景也は両手で顔を覆っている。
「けい、顔、見せて…」
「やだ」
 きっぱり即答されて、一月はくすっと笑った。
 景也の胸をはだけ、その白く輝くような肌に目を細めながら、ボタンを外すのももどかしく、ばっさりと頭から自分のパジャマを脱ぎ捨てる。
「けい、ずっと、けいの肌に触れたかった…」
 せわしなく上下する腹部に手の平をあてると、景也の身体がぴくっと跳ねた。そのままゆっくりと、感触を楽しむようにまさぐる。
「いつ…き…」
 脇腹を撫で上げると、息を詰めて身体を硬くする。
「あ…ぁ」
 そのまま覆いかぶさり、今度は優しくキスを落としていくと、景也は途端に身体を捩りだす。背中に腕を回して抱き締め逃げ場を無くすと、こらえきれない快感に可愛らしい声を上げ始め、一月の欲望をぐらぐらと揺さぶる。
「けい、好きだ…」
 素肌をまさぐっていた手で、誰にも触れられたことのない景也の股間をさする。
「いつ…あっあぁぁ…は…んっ」
 甘い痺れが下半身に広がり、それは一月が与えてくれたものだったけれど、恥ずかしくて気が変になりそうだった。
「けい、気持ちいい?我慢しないで良いからね…」
 一月はそう言うと、景也のパジャマのズボンを下着ごと、一気に膝までずらし、勃起し始めていた景也のペニスを手の中に包み込む。
「いつき…いつ…っ…ああっ…あっ…ぁっ」
 扱く動きに合わせて、景也の喉から喜びの声が漏れる。
「けい、ほら、こんなに溢れてるよ…」
 先端から溢れてくる蜜で、一月の指先も景也自身もぐっしょり湿っている。先端を指先で弄ると、たまらないのか身体がビクビクと震える。
「や…もう、やだ…いつき…」
 嫌だと言いつつ、景也は一月の手を止めようとせず、一月の首にしがみついてきた。
「けい?気持ち良いの?言ってご覧…」
 しがみついてひっきりなしに声を上げながら頷く。
「いつき…が、すき…」
「俺も、けいが好きだ。誰よりも愛してるよ」
 ペニスを弄っていた手を休め、もう一度景也をきつく抱き締める。景也の身体の緊張が解けるまで、抱き締めながら優しいキスを繰り返す。
「一月…」
 中途半端に放り出されたままの身体が辛いようで、一月をじっと見つめたまま密着した下腹部が一月を誘うように揺れている。
 一月は身体を離すと、膝の辺りにたまっていたパジャマを剥ぎ取り景也の両足を掴み、抵抗する隙も与えずにぐっと開いて自分の身体を割り込ませた。
「やだっ…いつきっ!」
 あられもない姿にされて股間を隠そうとしたが、それよりも速く、一月に恥ずかしいくらい勃起したペニスを口に含まれる。
 熱くぬめるその感覚に、さっきとは比べものにならないくらいの快感の波が押し寄せ、逃げる術を知らない景也はあっという間に飲み込まれてしまった。ぐちゅっと言う音が増幅されたように頭の中に響き、巧みな舌の動きは理性まで舐め取る。
「ああっ…んあっ…あっ…だめっ…もう……」
「けい、いっていいから…」
 そう言われて抵抗し我慢する術を景也は知らない。
「もっ…でるっ……!」
 景也がその瞬間背筋を弓なりにしならせた。一月は愛しい景也のペニスを奥深くまでくわえ込み、景也が寄り深い快感を得られるよう、強く吸い上げた。


「いつ……」
 一月は抱き締めたい衝動に駆られたけれど、自分の限界も近い事が分かっていたので、そのまま景也の太ももを押し上げ、うぶうぶしい色のつぼみに舌を這わす。景也は射精の快感ですっかり我を忘れているのか、素直に声を上げ続けている。
「んん…っ…うんっ…ぁ」
「けい…」
 ふわっ…とココナッツミルクの香りが広がり、景也が大きく息を吸い込む。
「いつき…これ…」
「ああ。けい、良い香りがするだろう?」
「…うん」
 さすがにこれから先は景也の負担を少しでも軽くしてやりたくて、一月は景也を胸の中に抱き込んだ。たっぷりと手にとったローションを、これから繋がる部分に丁寧に塗りつける。弾力がある尻の谷間を押し開くようにマッサージしながら、時々そのつぼみに触れると、景也が顔を胸に押しつけてくる。
「いつき…」
「けい、ちょっとここの力抜いてみて…」
 蕾の周りを、小さく円を描くようになでる。
「ん…」
 小さくこくん、とうなずき、景也が息を吐き出す。そのタイミングを見計らって、一月は中指をつぷっと景也の身体の中に潜り込ませた。
「あ…っ」
 生まれて初めての異物感に、景也は身体を震わせながら一月に縋り付く。
「けい、だいじょうぶだから…」
「ん…」
 きつく指を締め付けてくるそこをゆっくり解しながら、少しずつ奥へ奥へと指をすすめる。柔らかく絡みついてくる中を時間を掛けて余すところ無く擦っていると、それまでじっとしていた景也が急に身じろぎした。
「いつきっ…!」
「けい、ここ?ここが良いの?」
 答えの代わりに一月の腕をぎゅっと掴んでくる。
「んんっ…んぁ…は…んっ」
 指を二本に増やし、少しだけ緩んできた蕾を押し開くように、二本の指をバラバラに動かす。
「やっ…あぁ……っん」
「けい、もう俺も…」
 一番感じるところを激しく擦っていた指を抜き、限界まで猛った自分自身を景也のひくついている蕾に宛がうと、ぐっと身体を押し込んだ。
「あああっ!!いつきっ…いっ…うぁっ…!」
 苦しいのか、悲鳴すらうまく出せない。
「けい、楽にして…」
 先端がほんの少し入っただけなのに、食いちぎられそうなくらい締め付けてくる。
「いつきっ…いつきと…一つになり…たいから…」
 辛いだろうに、景也は一月を必死で受け入れようとしていた。
「けいや…」
 一月は少しでも早く景也の苦痛を終わらせようと、渾身の力を込めていきり立ったペニスを景也に突き立てた。
「うあぁっ…!」

 

 最初の痛みが去るまで、一月は景也の腰を優しくさすりながらじっと抱きしていた。荒い息が収まり、景也の身体がほぐれ始めると、景也の中がざわめき出すのがダイレクトに伝わってくる。
「けい…だいじょうぶか?」
「うん…もう痛くないよ…うれしい…嬉しくて、ないちゃいそう…」
 欲しかったのは一月だけではない。景也も諦めようと思いつつそれが出来ず、嫌われても良いから、無理矢理でも良いから一月に抱かれたかった。思いが叶っただけでも幸せだったけれど、こうして一月と愛しあえて、痛みや苦しみより、喜びの方が大きい。
「けいの気持ち良いところを可愛がってあげるからな…」
 くいっ…と腰を動かし、景也が最も感じるその場所を刺激する。ゆっくり優しく動かすと、熱い吐息を漏らしながらしがみついていた景也も身体の緊張を解き、少しづつ一月の動きに同調し始めた。
「あん…んんっ…あっ…あんっ…」
 景也が声を上げると同時に身体の中がきゅっとすぼまり、慣れ無いながら喜んでいるのが伝わってくる。角度を変え、擦るスピードを変えながら突くと景也は素直に反応し、一月の身体にしがみついて背を仰け反らせる。
 寂しい思いをさせていた間に、景也の身体は既に一月を迎え入れる準備を済ませていたのか、普段の景也からは想像もつかない艶やかな姿だ。
(やばい…)
 常にない色気を発散させ一月に絡みついてくる景也に、一月はあっというまに上り詰めそうになる。
「けい、けい…」
 我を忘れるような快感に自制心が崩れ、一月は激しく腰を穿ちはじめた。
 景也の首筋に噛みつくように顔を埋め、羽交い締めするかのようにきつく抱き締め、最奥に愛情の証を解き放つ。
 最後の最後で景也を思いやれなかった事に気がついたのは、射精の余韻から解放された後だった。のし掛かったままの姿勢から、少し身体を離したとき、景也のまだ硬い物が一月の腹に触れて…


「「……」」
 

 前代未聞の、大失態だった。


 後からちゃんと気持ちよくしてくれたじゃない…と言われても、経験豊富なはずの自分が「もっていかれた」事実は消えない。ましてや、いつから愛するようになったのかはっきり覚えていないくらい長く愛している景也の、初めての…で…
 景也が想像を絶する色気を放っていたとか、そんなことは言い訳にしたくないが、可愛いけれど田舎っぽい景也が…同年代の女達とは比較にならないくらいの艶やかさを秘めていたなんて…
 景也が気を使ってくれるのでふて腐れることも出来ず顔では笑ってみたものの、男のプライドは木っ端微塵だった。
 景也はそんな一月の張り付いた笑みに困った様子だったが、元気を出して貰おうと、一月ってやっぱり男らしい体型なんだね〜、などと、自分より大きいサイズの一月のパジャマを着て笑っている。
「けい、何があっても絶対俺のパジャマを着たらダメだぞ?俺がここにいるときは使っても良いけど。袖に火がついたり、足元踏んでこけたりするからな」
 うん、と首を縦に振る姿には艶めかしさは微塵もなく、ただ可愛いばかりだ。
 抱き寄せてキスを繰り返し、肌をまさぐる。
「一月、もうお昼だよ…お腹空いてない?」
 ほんの少し声を震わせながらも柔らかく阻止しようとする。
「けいを食べる…」
「だめ。僕がいなくなっちゃうよ…一月とずっと一緒にいたいのに」
 綺麗にしなる景也の背中を抱き締めると、景也が自分からキスをしかけてきた。
「一月が好き…」
 何度になるか数えられないくらい、景也はその言葉を繰り返した。
 ずっと言いたくて、でも仕方なく飲み込んできた。やっと口に出せるようになって、うれしくてたまらないのだそうだ。
「ほったらかして、ごめ…」
 最後まで言わせないで、景也がまた一月の口をぱくっと食べてしまった。
 

 一月が地元に帰る日、昼まで名残を惜しむように抱き合った後、一月は景也を倉石と克彦に託した。人を疑わない性格なのでいつ騙されるかしれない。
「暫くは誰も部屋に上げるんじゃないぞ?毎晩必ずメールしろよ?できるだけ週末に来るようにするからな?」
 他にも散々細かいことを要求したが、景也はそんな束縛すら嬉しいようで、素直に頷いていた。
「けいちゃん可愛いから心配だよね。でも俺たちに任せておいたら大丈夫!プレゼントも役に立ったでしょう」
 克彦が景也にプレゼントしたものは、「男同士の愛撫マニュアル」だった…景也は知らなくて良いので一月が取り上げてしまった。むしろ自分の方がいろいろやるべきで…
「ココナッツローション、すごく良い匂いでした!」
 それはそうだが駅の構内で喜々として言う景也の行く末がとても心配で、一月は後ろ髪を引かれる思いで東京を後にした。
 泣かれたら困ると思っていたけど、笑顔で別れるのも少し寂しい気がする。でも、今この瞬間の別れは、新たな始まりのきっかけなのだと思うと、一月の気持ちはすこし、晴れた。


「けいちゃん…?」
 さっきまで笑顔で力一杯腕を振っていた景也がふっ、と下を向いた。
 ぽろぽろ、ぽろぽろ涙が溢れて…
「うぅ…いつきぃ…いっちゃ…た」
「うわ…泣いちゃったよ、けいちゃん…っ」
 なぜか克彦までもらい泣きし始めて…
「辛いの…俺、わかるよっ…わかるよ、けいちゃんっ」
 お前は自業自得だろう、と言いたいのを我慢して、倉石はその後数時間、この二人が落ち着くまで子守をしなければならなかった。


END

  

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この二人の話はこれでお終い。高校生の頃、こんな恋愛したかったな〜…

と、半分願望のようなお話しでした^-^; 今妄想してるから良いかな?

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きっかけ 3

一月と景也