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兆す、銀

ユリアスとシリル

光りある者・番外

おまけ

 頭の上には降るような星空が…見えたが、それを楽しむ余裕などシリルには微塵もなかった。
 轢死したカエルのような格好でベッドに押さえつけられ、二度目の時のように(三度目か?)ユリアスの頭が股間に張り付いている。
 嫌だと叫びたいのに、口を開けば出てくるのは自分で聞いたこともないような喘ぎ声で、反射的に自分の口を押さえてしまった。ユリアスの頭を引き剥がす方が先だというのに。
「う…んんっ…んっん…!…んっっぅ…」
 自分が溢れさせたものとユリアスの唾液がからまり、もう一組手があれば耳も押さえていただろう淫靡な音も聞こえてきて、意識がそこに行くとあっという間にはじけそうになる。
「ふんっ…んっ…んぅっ…んんっっ…あぁっ…!やぁっ!!」
 口元から手を外してユリアスの髪を掴んだのは、ユリアスが舌先で狭い尿道を押し広げたからだった。
「やあっ…ん…!はっあぁぁっ…!ユリアスさまっ…そんな…ことっ…」
 拒絶の言葉など全く聞いてもらえない。それどころか、舌の動きはますます激しくなり、その少し奥まったところを指で捏ねるようにされ、これ以上どんな声を上げればいいのかも分からないくらい…気持ちよくて…
「い…ちゃう…俺、もうっ…あんっ…はあんっ…!いっちゃう…よぉ…」
 ユリアスは何も答えてくれず、その代わりじゅる…っと小さな尿道口を吸い上げる。
「あぁぁっ!!」
 一層激しい快感に襲われ、シリルは腰をふるわせながらいってしまった。


「シリル…」
 優しく名前を呼ばれ、ふわふわと浮くような心地よさの中を漂っていたシリルが現実に戻ってくる。
「ユリアスさま…?」
 先程まで下腹にあったユリアスの顔が心配そうにシリルの瞳をのぞき込んでいた。
「大丈夫か?」
 優しい言葉が、心地よい身体を更に満たしてくれる。
「ん…」
 だが優しさもそれで終わり。
 濡れぞぼった下半身に、ユリアスは容赦なく手を伸ばしてきた。
 丸みを帯びた尻を手の平で包み込むと、両の丘を開くように揉みしだく。
「や…」
 慌てて抵抗しようとしたけれど、絶頂を迎えた後の身体は重く、言うことを聞いてくれない。手を除けようとしたのに、逆にユリアスに縋り付くような体勢になってしまった。
 自分が流した物とユリアスの唾液で十分潤っていた後孔に、悪戯な指先が触れる。皺の一つ一つをなぞるように動かすうちに指先がほんの少しだけ入り口を押し広げ、シリルの瞳に不安が宿る。
「ユリアス様…そんなところ…やぁ…」
 嫌と言ってみたところで止めてもらえるわけがない。ユリアスにお預けを喰らわせたのも自分だ。それに…自分の身体になど魅力はないのでは、と思っていたのだが、初めて見るユリアスの雄は恐ろしいほどに勃起しており、その事が単純に嬉しかった。 
 自分には一生縁のない物だったし、他人の性器などあまり見たこともなく大きさや形など気にしたこともなかった。しかしユリアスのそれは凝視してしまうほど長大で、不安ばかりが募っていく。ヴァンサンに、男は初めてと言うと余計なことを沢山教えてもらったが、どれも曖昧で思い出せず、手練れのユリアスの言うとおりにしていればいい事だけが頭の中に浮かんでくる。
 浮かんでも、ユリアスの巧みな指先に翻弄される身体は自由に動かすことも出来ず、快楽の波が打ち寄せるたびに思考など洗い流されてしまう。
「んあぁ…ん…はぁっ…ユリアス…さまっ…ん」
 ユリアスが答えるようにキスをしてくれた。
「シリル、入れるぞ。少し我慢して」
 何を?と聞こうとした瞬間、ユリアスの指が後孔にずぷっと潜り込む。
「ああっ!あっ…はんっ…やだっ!」
 何とも言えない感覚に驚き、身体を硬くするとユリアスの指が身体の中で蠢くのがはっきりと分かってしまう。異物感に戦く瞳をユリアスに向けると、優しく笑いながら沢山のキスをしてくれた。
「シリル、直ぐに気持ちよくなって、恐くなくなるから…」
 

 シリルの中は熱く、初めての異物を受け入れ戸惑ったようにざわめいていた。指先で中の襞を伸ばすように弄るとその周囲が絡みついてくる。ここが自分の猛った物を迎えてくれるのかと思うと待ち遠しくて仕方がない。が、全てが初めての経験のシリルに事を急くような真似をしてはいけないと、理性が叫んでいた。
 先程までは快楽に喘いでいた声が不安げな声に変化し、怯えるような瞳で見つめられ、愛しさが増す。尿道口の少し奥、前立腺の真下辺りを刺激すると、身体を震わせて感じていた。体内の、最もそこに近い部分を攻めればシリルはたちまち快感の波に引き込まれるはずだ。
「シリル…」
 耳元に囁きながら、意図的に避けていた場所に指を押しつけると、途端にシリルの身体が跳ね上がった。
「やぁっ!!」
「シリル、ここが好きなんだな?」
 じたばたし始めたシリルの腰をしっかり抱き寄せ、細かく震えだした内壁の一点を集中的に攻める。
「やっ!あああぁぁっ!」
 悲鳴のような喘ぎ。
 前からはドクドクと愛液が溢れ、潤滑剤など使わずとも指だけなら飲み込めそうだ。
「あっ!ああんっ…んっ…だめっ…やだ…んんっ!」
 ユリアスはシリルが一段深い快感にのめり込んだことを察し、二本目の指をぐっと押し入れた。シリルの目が一瞬大きく見開かれ、息が詰まる。
「ゆっくり、大きく息をして。大丈夫だ。上手に受け止めたね」
「ああっ…ユリアスさまっ…こんなの…へんっ…んあぁっ…」
「シリル、変ではない…もっと感じて良いのだよ?ほら、良いところを沢山弄ってあげよう」
 入り口を大きく広げながら、シリルが最も感じる部分をぐちゅぐちゅと音を立てながらかき回す。
「あ!ああっ!はぅっ…うんっ…あ…いっ…きもちいっ!」
「シリル、感じるままに…ほら、中がこんなに絡みついてくる」
 いやらしい事を言われても全く否定できない。そのくらいシリルは気持ちよくて、溺れそうになるのをユリアスにしがみついて耐えるしかなかった。
「も…だめぇ…っ!ああっ…ああぁぁぁっ!」
 

 ユリアスの指をぐっと飲み込み締め付けた瞬間、シリルは激しく痙攣し、ぐったりと力を抜いてしまった。射精出来ないシリルにとって全ての快感はドライオーガズムと言われる物で、射精を伴う快感の比では無いという。僅かな意識はあるものの、その大きな波が引くまでの時間も長いのか、朦朧としていて、ユリアスが背後に回りシリルの腰を高く上げてもむにゃむにゃと睦言を繰り返していた。
 我に返ったのはユリアスの凶器の先端が後孔に宛がわれ、ぐっと押し込まれようとしたときだった。
 その部分に感じる熱と痛みで、シリルは悲鳴を上げた。
「ひぃあぁぁっ!」
 未知の恐ろしさに全身がすくみ、ユリアスのペニスの先端を食いちぎろうとする。
「シリル…力を…抜け…」
 ユリアスの言葉も耳に入らないのか、ぎちぎちと音がしそうなくらい締め付けてくる。
「いたい…ようっ…やめて…いたい…」
 苦痛に涙をにじませ本気で嫌がっている。
「シリル…もう少しだ。もう少しで、さっき以上に気持ちよくなれる。良い子だから力を抜いて…」
 背後から包み込むように抱き寄せ、耳元にささやきかける。尿道を指先で刺激すると、苦痛の中に少しだけ甘いと息が混じるようになった。
「シリル、ここが気持ち良いのか?」
 くちゅっと音を立てながら触れると、身体の力が抜けるのが分かる。
「あと少しだから…そのまま力を抜いていて…」
 ほんの先端が入っているだけだが、こんな嘘なら幾らでもついてやる。そう思いながら一気にシリルを貫いた。
「やああぁぁっ!!」
 ずるっと、何とも言えない感触が腹の中を走り、内臓が押し上げられる。
「ゆりあすさま…うそつきっ…いたいよぉ…」
「直ぐに収まる。それまでじっとしているから。シリル、やっと手に入れた…私の愛しいシリル…」
 後ろから回した手で抱き締め、つんと尖った乳首や甘い香りの蜜を止めどなく溢れさせる下腹を労るように愛撫する。仰け反っていた背中に口付けを落とし、時々甘噛みするとシリルの口から吐息が漏れた。
 初めてユリアスを受け入れた後孔はきつく、ユリアスにとっても凶器のようだったが、やがてシリルが落ち着きを取り戻すと共に、愛おしげに絡みついてくるのだった。
「絡みついてくる…嫌われてはいないようだぞ?」
「んっ…ユリアス様…熱い…お腹の中…一杯で…」
「ああ…ゆっくり動く…良いところを沢山可愛がってやる…」
 沢山、かどうかは怪しい。諸々の状況に、ユリアスの方も何時爆発するか分からない…
 それでもこの愛しい恋人に悦楽を与えようと、ユリアスはゆっくり刀身を抜き、先程シリルが我を忘れた場所を軽く突き上げる。
「あんっ…!」
 軽い衝撃に身体を揺らし、喉を仰け反らせる。銀色の髪が舞い上がり、キラキラと光りの粉をまき散らすかのようだ。
「あぁっ…はんっ…んっ…んっ…んんっ」
 先端で快楽の扉を叩いき、シリルの快感を呼び戻す。そこを擦りながら奥まで差し込むと内壁が素直に導き入れた。そしてまた引き抜き…繰り返すごとにシリルの後孔は出て行くのを拒むように吸い付き、最後は包み込むように押し出す。
「く…」
 その絶妙な動きに射精感を煽られながら、シリルを喜ばせようと次第に強く、早く腰を突き入れる。
「あ…っん…いぃっ…ゆりあすさま…きもちいぃ…」
 次第に激しくなる動きに身を任せ、シリルは愛しい人が与えてくれる快感だけを追いかける。
「シリル…っ!」
「ああっ…あっ…はんっ…あぁっあ…いっちゃう…いっ…!!」
 シリルの全身に力がこもり、内壁がユリアスを深く飲み込みきつく締め付け、細かく痙攣する。
 その衝撃にユリアスも己をぐっと引き抜きシリルの身体を突き抜ける勢いで深く抉り、最奥に精を迸らせた。


 星が降っていて、吸い込まれそうだったな…
 シリルはなんとなくそんなことを思い出しながら、眠い目を擦っていた。 気分は晴れやかだが、身体は鉛のように重い。寝返りを打とうにも長い髪を身体の下に巻き込んでいるのかびくとも動けない。
「…う…ん?」
 身体をずらしたつもりなのに、まだ髪の毛がひっぱられる感じがする。
「あ…ユリアス様…」
 シリルの髪の毛を巻き込んでいたのはユリアスで…いつもなら枕の上の方で、ユリアスからもらったブルーグレーのリボンで緩くまとめているのだが…昨夜は…
「あ…!」
 思い出したシリルはすっかりぐしゃぐしゃになった髪をぐいっと引っ張り、ベッドから出ようと思ったのだ。気持ちだけ。
 背後からユリアスが抱き締めていて動けなかったし、動けないのはそれだけが理由ではない。自由になった銀色の髪で赤くなった顔を隠し、ユリアスが目覚め解放してくれるまでじっとしていた。
 どんな顔をしてユリアスと目を合わせればいいのだろう…恥ずかしすぎてこの場から逃げ出したい。もう一生あんな事はしなくて良いかも…
「…シリル…?」
 ユリアスの擦れた声は毒だ。名前を呼ばれただけなのに全身が甘く疼く。
「…ああ、今日も綺麗だ…」
 どこが、と思っていたが、ユリアスに愛されて少しずつ自分の全てが輝き始めたような気がする。
「シリル、こっちを向いて」
「ダメ。顔を洗って、ちゃんとしてから」
「猫みたいに手でゴシゴシ擦っただろう?」
 そんなことをしては肌に悪い、といつも言われていたけれど、ゴシゴシすると気持ちが良いのだ。
「…うん」
 軽く笑いながら、ユリアスが腕に力を入れてシリルを自分の方にむき直させる。お早うのキスはおでこから…これも昔と変わらない。変わったのは、最後のキスが、頭の芯がクラクラするような深い物になったこと。
 それに今朝は二人とも素っ裸で…素肌で触れ合うことがこんなに気持ちいいことだとは知らなかった。
 キスが終わってみれば、恥ずかしくてどうしようもなかった気持ちも落ち着いていて、ユリアスの裸の胸に平気ですがりつける。
「どうした?まだ足りないか?」
「な…朝からそんなことっ」
 どうしてこの人はいつも虐めるのだろう…せっかく落ち着いていたのに、また顔が赤くなってしまった。
 けれど、それも幸せで…
「今日は一日中こうやってお前を抱き締めていたい」
 たまにはそんな怠惰な一日も良いかな、とシリルは思った。
「うん。俺も…」
 だがそれだけで済むと思ったのは、シリルの可愛い誤算だった。


END


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