亮の日記
今日はとても楽しかったです。何から書けばいいのでしょう?楽しすぎて、帰宅後に熱を出してしまいました。でもどうしても日記が書きたくて…眠ったふりをしてベッドの中で書いています。
巽さんは少し仕事があるそうで、いつものようにだんな様とお出かけになりました。その後ゆっくりしてお昼前に秋一さんとタクシーで出かけました。巽さんとは会社で待ち合わせているのですって。
僕はただもうぼーっと窓の景色を眺めていました。お屋敷のまわりには可愛らしいお家が沢山ありましたが、会社に近づくにつれ、建物が大きく立派になっていきます。タクシーの窓からは建物のてっぺんが見えないのです。
だんな様の会社も見たことがないくらい大きな建物で…25階建て?なのだそうです。エレベーターで20階まで上りました。そこは社員専用の階で、巽さんのお仕事が一区切りつくまでそこで待っていました。
初めて会う社員の方達に話しかけられたり写真を撮られたり…だんな様の部下だと思うと失礼があってはいけないので、丁寧にご挨拶しました。紙のコップに入った甘いミルクティーも美味しかったです。
その後秋一さんと巽さんに連れられ、銀座という街へ行きました。どこもかしこも人で一杯です。どなたに挨拶すればいいのか分からないので、とりあえず目があった人にはこんにちはと声を掛けたのですが…
「亮、知らない人には声を掛けなくて良いんだよ」
「俺たちが話す人とだけ話せばいいから」
と、お二人が…でも皆さんが僕の方を向いてにっこりしてくださるから無視するのはとても失礼ですよね?手を引かれて、とても速いスピードで歩かれるのでご挨拶を返すのも大変でした。
最初に行ったのはお洋服が沢山あるお店でした。秋一さんが好きなお店なのですって。店員さんとも仲よく話していらっしゃったので、僕もやっときちんと挨拶が出来ました。お店の方は秋一さんの好みを良く知っていらっしゃるようで、すぐに新しいお洋服を持ってきましたが…
「今日は俺のじゃないんだ。この子に似合いそうなのが欲しいんだけど…」
そう言いながら僕を見つめています。
「綺麗な色で、デザインも繊細で、こう、柔らかくて優しくて、そんな感じの」
髪の毛の先までハテナ印になってしまいました。僕の?秋一さんのお誕生日なのだから秋一さんのを選ばなくてはいけないのに…
ぽやっとしていたら次々に色々な服を持ってこられて、着替えさせられて、くたくたになってしまいました。
その後何件もお店をまわり、秋一さんはご自分の物やだんな様の物も買われました。だんな様の物は僕も一緒に選べたのでとても嬉しかったです。だんな様の姿を思い描きながら、お似合いになる色や形を秋一さんと巽さんと三人で話し合いながら、主に小物や休日に着るポロシャツやセーターを買いました。でも僕が選んだと言うときっと気を悪くされるから内緒にしてもらうことにしました。
ケーキやチョコレートも沢山買いました。どれも飾り付けが凝っていて宝物のように見えます。食べるのが勿体ないです。こんなに繊細な飾り付けはさすがに僕もできません。もっと板井さんに特訓してもらわなければ…だんな様はいつもこんなお菓子を外で見てらっしゃったのかと思うと、恥ずかしくなりました。
最後に大きな公園へ行きました。そこへ行くまでの道はすっかり忘れてしまいましたが、ショーウィンドウを見ながら歩くのはとても楽しかったです。公園には秋の花が沢山咲いていて、木や花壇の手入れも完璧です。どなたがお手入れしてるのでしょう。僕もお庭の手入れを頑張らなくては…
公園にはカフェがあり、そこで甘いコーヒーを飲みました。季節柄でしょうか、刻んだ栗がたっぷりのクリームの上に乗っていて、とても美味しかったです。クッキーやパウンドケーキも売っていて、外の席でピクニックのような気分で頂きました。
暫く歩き回った後、三人で早い夕食を頂くためにホテルへ行きました。だんな様が良くご利用しているホテルなのですって。僕が色々な人と話すので、食事は個室で頂くことになりました。板井さん以外が作った物を食べるのは久しぶりで、どのお料理も目新しくて美味しかったです。僕があまりにレシピを尋ねるものだから、途中でシェフが出てきてくださいました。谷本さんとおっしゃるシェフです。板井さんの事もよくご存じなのですって。だんな様ともよくお話をされるそうで、とてもうらやましかった。どんな話しをされたのか聞いてみたかったけど、その事をだんな様に知られたくなかったのでお聞きしませんでした。お屋敷では料理の話しは一切されないのに…
それから秋一さんはだんな様と会うためにホテルのお部屋へ向かわれました。僕は巽さんと一緒にホテルを出て、しばらく二人でお散歩をしました。見る物全てが新鮮で僕は質問ばかりしていたと思います。巽さんがしっかり手を握っていてくださらなければ直ぐに迷子になっていたでしょう。煩くて足手まといだっだでしょうに、巽さんは僕に歩調を合わせてゆっくり歩きながら、ずっと笑顔でお話ししてくださいました。
今頃秋一さんもだんな様の優しい笑顔を見ているのでしょうか?ご自分のお誕生日なのに僕を心からもてなしてくださる優しい方…今夜、僕の分の笑顔もだんな様を通して秋一さんに伝わりますように。