亮の日記

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今日は大失敗をしてしまいました…
 今朝は皆さんお揃いでお出かけだったのです。だんな様にコートを着せて差し上げて、巽さんにも着せて差し上げて、秋一さんにも…それから扉を開けてお車までお送りします。お車のドアは会社の運転手の方が開閉して下さいますので、僕は玄関の外でお見送りするだけなのですが…
 最初にだんな様が外に出られたとき、玄関周りが雪で滑りやすくなっていました。朝、お掃除をしたのですが、濡れていた部分がうっすらと凍っていたようです。だんな様が後ろに続く巽さんや秋一さんに声をかけていたのは聞いていました。僕も気をつけなきゃ、と思って一歩踏み出した途端…
 どんっ!と衝撃を受けて、気がついたら玄関の天井と空が見えていました…

 巽さんと秋一さんが急いで近づいてきて、何がどうなったのか暫く分からなくて藻掻いていた僕を助け起こして下さいました。
 一瞬息が詰まり、そのあと背中にじわっと痛みが走りました。
「頭を打っていたらいけないから、じっとして…」
 巽さんが心配そうに見ています。
「亮、頭打った?」
 秋一さんも心配そうにおっしゃったのですが、背中は痛いけど頭はどこも痛くありません。
 僕は大丈夫なので、早くお出かけにならないと…と言うと、巽さんはだんな様と秋一さんには先に行くように伝え、自分は久実先生を呼んで何でもないことを確認してから出社する、とおっしゃいます。そんなことをすれば巽さんのお仕事の邪魔になります。何度も大丈夫だからお出かけ下さい、と言ったのに…巽さんはだんな様と秋一さんを車に押し込めると、先に行くようにと運転手の方におっしゃいました。

 巽さんに抱き上げられたとき、車の中のだんな様がとても恐い顔でこちらを見ていたので、僕は申し訳なくて泣きたくなりました…
 
 久実先生が来られる頃には打ち身以外は大したことないと自分で分かっていました。久実先生が一応背中を見るからとおっしゃって…巽さんがいらっしゃるので、僕は服を脱げません。久実先生は背中の傷の事を知っていらっしゃるし、お医者様なので構いませんが、巽さんには見られたくなかったのです。また泣きそうになって久実先生を見ると、分かって頂けたのか、巽さんに出て行くようにおっしゃって下さいました。
 巽さんは一度では納得しませんでしたが、久実先生が少し厳しくおっしゃったので渋々出て行かれましたが…巽さんは全く悪くないので、僕はまた悲しくなってしまいました。

 背中は自分で判断したとおり、打ち身だけでした。背骨も大丈夫だし、足もしっかり動くので神経も痛めていません。湿布と塗り薬を置いて、久実先生は帰って行かれました。
 巽さんにはただもう申し訳なくて、謝ろうと思ったのですが…

「せっかく亮の美しい裸が見られると思ったのに…」

 巽さんは背中の傷のことを知りません。僕は美しくなんか無いのに…でも、そうやって茶化して下さるのは、優しいからだと思います。
 もっと酷いことをされて、誰にも助けてもらえなかった頃に比べたら何という幸せでしょう。僕は巽さんが自分からお出かけになる気になるまで、側にいてもらいました。

 僕の不注意で巽さんにはとても迷惑をかけ、秋一さんには心配をかけ、だんな様を怒らせてしまいました…すごく落ち込んでいます。
 ごめんなさい…
 巽さん、ありがとう。