亮の日記

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 昨日はお見合い…のはずでした…
 巽さんの好きだった方は来なかったのです。
 前の日に板井さんが作ったスポンジケーキに、朝から心を込めて飾り付けし、テーブルもセットし、お待ちしていたのに…
 約束の時間になって、巽さんにメールで連絡してきたのです。今日は行けなくなりました、って…

 せっかく…せっかく、みんなで準備をしたのに…元気がなくなった巽さんを、僕は見ていられませんでした…とても悲しそうで…暫く僕をぎゅっと抱き締めていらっしゃいました。

「せっかく亮が作ってくれたケーキだから、一緒に頂こう」

 そうおっしゃって、二段重ねのケーキを僕と巽さんで切り分けました。お部屋に籠もっていた秋一さんとだんな様にもおすそ分けして、僕は巽さんと一緒に、綺麗にセッティングしたお庭のテーブルで頂きました。

「まだそんな仲じゃなかったって事だよ」

 僕が大人しくしていると、巽さんは優しく微笑みながらおっしゃいました。お辛いだろうに、巽さんはとても気丈で大人です。

「その代わり、今日一日、私と一緒に過ごしてくれるかな?」

 僕にできることは何でもしようと思いました。幸い今夜は、秋一さんとだんな様は巽さんに気を利かせて、外で食事をする予定にしていました。夕飯の支度もいらないので、ずっと巽さんのお相手ができます。こんな時、外に出られたら巽さんの行きたいところに連れて行って差し上げることができるのに…お屋敷の中で、精一杯巽さんに楽しんでもらおうと思いました。

 温室やお庭を散歩したあと、巽さんは夕食の準備を手伝いたいとおっしゃいました。板井さんにエプロンを貸して貰って、僕がお手伝いしながら巽さんは夕食の支度をしたのですよ!もうびっくりです。
 巽さんはきっちりした性格なので、食材をとても美しく切っていらっしゃいました。調味料もきっちり計ってレシピ通りに作ったのでとても初めて厨房に立ったとは思えないくらい美味しくできあがりました。

 お屋敷のみんなで夕食を頂いたあとは、巽さんの部屋で子どもの頃の話しやだんな様の学生時代の話しをして下さいました。そうして巽さんと一緒に過ごしていると、秋一さんとだんな様が帰ってこられ、お土産のシャンパンを頂いたのでお風呂に入ったあとに一緒に飲むことにしました。
 巽さんと一緒に屋根裏部屋で毛布にくるまって…僕が湯冷めしないように、巽さんが毛布を持ってきてくれたのです。空気が冷たくて澄んでいて、星がとても綺麗でした。僕はいつの間にか眠っていたらしくて、目が覚めたら巽さんのベッドで眠っていました。

 目が覚めて朝の支度をしに部屋を出ようとすると巽さんが起きてこられ、僕にお礼を言うではありませんか…僕は何もしていないのに…それどころか、本当に僕が一日中付きまとっていて良かったのか…

「亮のお陰ですっかり気持ちがリラックスしたよ。これからも時々二人きりでデートをしよう」

 とおっしゃいましたが…僕などより、もっと巽さんにふさわしい相手がいると思います。今度こそ巽さんの恋がうまくいきますように。