亮の日記
電気代の節約とろうそくの話しを巽さんにすると、屋根裏の物置から古い燭台を探してくださいました。昔、部屋に飾られているのを見たことがあるのですって。高校生の頃、だんな様と二人でろうそくの火を灯し、ロマンチックなお話しをしたのですって。どんな話しなのかお聞きすると、好きな人の話、とおっしゃいました。巽さんもだんな様も、当時はどなたか好きな人がいらっしゃったのかな?
でも、ある時急に燭台や他のがらくたを全部片付け、お部屋の様子をすっかり変えてしまわれたのだそうです。それ以来だんな様は好きな人の話しをしなくなったのですって…何かあったのでしょうか…今はお幸せそうなので良いのかな…
巽さんが探してくれた燭台にろうそくを置き、僕の部屋でゆっくり過ごしました。だんな様は午前中の会議のせいで一日中ご機嫌が悪く、夜は秋一さんと食事に行かれたので、お屋敷の仕事はいつもより早く終わりました。お二人が酔っぱらってたら危ないので、お帰りになるまで巽さんと二人で色々な話しをしました。
僕は巽さんとだんな様の昔のお話しが聞きたくて、この同じろうそくの光の中でどんな話しをされたのか根掘り葉掘り聞いてしまいました。
巽さんは困ったように話してくださいましたが、聞いた僕も困ってしまいました…
「迅は…君の話ばかりしていたよ…君のペンダントを肌身離さず持っていて話しかけていた…一刻も早く大人になりたがっていた。誰よりも大切な君を助けるためにね。だからいつの間にか私も…君に恋していた。迅が君のことを嫌いになった時、ラッキーだと思ったよ」
一緒に過ごした数ヶ月のことを何度も何度も話してくれたので、巽さんもまるでその場にいたかのように思い描けるのだそうです。
僕も、毎日、どんなときでもだんな様のことを思い出していました。いつかきっと迎えに来てくれると信じて。そして、来てくれた。僕が生まれてから唯一と言っていい願い事を、だんな様は叶えてくれたのです。
「私も手伝ったんだけどな…」
巽さんが拗ねたようにおっしゃいました。僕が、なんでもしますと言うと、暫く僕を見つめた後、
「…いつか…いや、亮は何も気にしないで。今のままでいてくれたらそれで良いよ。迅のように変わらないで居て欲しい」
今のままの僕って、どんな僕なのかな?