お父さん、お母さん、叔父さん…
 今日、義童さんから、好きだって告白されました。びっくりしました…義童さんの気持ちは考えなくて良いから、自分の気持ちを考えろって言われました…俺、男なのに…男同士だから、良く分からない。義童さんは、失うのが怖いからって、独りでがまんしてはいけないって言ってた。我慢してるつもりはないけど…でもやっぱり、怖い。どうしたら怖くなくなるのかな?…今のまま、友達のままでいたほうが、怖くないかな?分からない…義童さんの事は好きだけど、どうしていいのか分からない…
 …お休みなさい…

 ベッドに入っても、雷は寝付かれなかった。
 誰かをそんなに好きになったことは無かったし、愛していると言われた事もない。叔父さんにはさんざん言われたけど、それは親子の愛情だし…。全くの他人と愛し合った事など無い。付き合ってみた女の子達だって、こんなに考え込むほどの事はなかった。面白くないと言われても、別にどうと言うことはなかった。寂しさが落ち着いたら義童さんも離れていくと思っていたから、誘われるままに一緒にいたけれど…楽しかったのは事実。同性に愛していると言われて抱き締められて、びっくりしたのもあるけど、突き放せなかった。そう言えば子供の頃、叔父さんがよく抱き締めてくれた。レースで良い成績を出したときも最悪だったときも、ぎゅっと抱き締めてくれた。それはとても心地良かった。義童さんとも…嫌じゃない。人を愛するってどんな気持ちなのかな?友達とはまた違うのかな?

 次の日もいつもと変わらず、今度は義童が雷のうちに押しかけていた。
「ほれ、今日はかにクリームコロッケと普通のコロッケと、カボチャのコロッケと、ポテトサラダ」
 自分で作ったのではなく、買ってきた物だ。
 いつもと変わらない義童に感謝半分、疑問半分の雷は、残り物のキャベツやタマネギ、トマトを刻んでコンソメの素を使ってスープを作ることにした。
 義童は仏間に入ると、りんを鳴らし、鬼籍の人達に挨拶をした。今日は少し長めの報告がある。雷と真剣に付き合いたいこと、雷をぜったいに独りにはしないこと、たぶん自分の方が先に死ぬけれど、それでも雷が幸せだったと思えるような人生を送らせたいこと、男同士でごめんなさいということ。義童は雷が呼びに来るまで真剣に拝んだ。
「ごはん、準備できたよ」
「ああ、今行く」
 さすがに今日の雷は義童の目を見ようとしなかった。
 それでも嫌がらないのは、嫌われたわけではないからだろうと勝手に思いこむ。
「雷はいつから料理とかするようになったの?」
「…中学に入ってからかな…」
「それまでは叔父さんが?」
 こくん。
「叔父さんも料理がうまそう」
 こくん。
「叔父さんに教えて貰った」
「へぇ…叔父さん、シェフかなんかだったの?」
「ううん。小学校の先生」
「へぇー、きっとみんなに好かれてたんだろうな」
 こくん。
「時々、生徒だった人が訊ねてくる」
 義童は食べ終わった皿を片づける雷を手伝う。雷が洗剤で洗って、義童がすすいでラックに入れる。先に洗い終わった雷がラックの皿を拭き上げて終了。雷が拭き上げる間にコーヒーを沸かし、雷のデザートを準備する。見事な連携プレーである。
「雷、昨日のことだけど…」
 雷をのぞき込むと、やはり俯いてしまった。
「返事は急がないけど、私が手を出しそうになったら、全力で拒めよ」
 びっくりしたのか、一瞬義童を見た後、直ぐに目を反らした。顔が赤くなっている。やはり、そう言うことは考えていなかったか、と義童は心の中で少しにやけてしまった。
「愛しているって言うのはそういうことだよ、雷」
 隣でフリーズしている雷に構わず、義童は続けた。
「男と女の場合は分かるだろ?男同士もあんまり変わらないんだけど、入れる場所が場所だから、雷も覚悟がいるよ?」
 火を噴きそうなくらい、顔が赤くなっている。
「だいじょうぶ、嫌がることはしないから、嫌だったら嫌がればいいんだよ」
 猫っ毛をくしゃっとすると、思いっきりびっくりして仏間に逃げ込んだ。
「雷…」
 襖というのは追いかける方には便利で、片方を押さえてももう片方まで同時に押さえられない。いつも開け閉めしている方はびくとも動かなかったが、反対側は簡単に開いた。義童は首だけ中に入れて、出来るだけ優しく声をかける。
「雷、今日のデザートはアイスクリームだから、溶けないうちに出ておいで。もう変な事言わないから」
 暫く無視して新聞を読んでいると、雷が出てきた。俯きながらもアイスクリームを食べる、だいぶん溶けていたので新しい物をもう一つ出してやると、二つめも黙々と食べ始めた。
「美味かったか?それ、最近出来た人気の店のだよ。うちの事務所のやつが設計したお店なんだ」
 こくこく、と頷く。機嫌は少し良くなったみたいだ。
「良し、じゃあ私は少し仕事が残ってるから、帰るな」
 雷は玄関まで付いてきてくれた。お休み、と軽く手を振って外に出る。
「あ、忘れ物!」
 急に思い出したふりをして相手を油断させるのは使い古された手管だが、雷は見事に引っかかった。一瞬、警戒を解いた雷をがしっと抱き寄せ、口づける。
 たぶん、これが雷のファーストキス。
 驚いて抵抗することも忘れ、身体を硬直させている。雷の硬直がとれて抵抗が始まるのが早いか、腰砕けになるのが早いか、賭でもあった。背中を撫でながら唇を優しく噛む。舌で歯をなぞり、微かに震える雷の舌先にかるく絡ませる。絡ませた途端、雷はしがみついてきた。それは抵抗ではなく、震える身体をなんとかしようと縋り付くような…義童は雷の腰に手を回し、しっかり抱え込むと、雷の舌を絡め取り、吸い上げ、奥深くまで差し込み口腔内を余すところ無く貪った。思うさま貪った後は何度か軽く唇をついばみ、優しく抱き締めた。雷は何度か苦しげな呼吸を繰り返し、だんだん正気に戻ったのか、義童の腕から逃れようと藻掻き始める。
 そっと腕を解き、身体を離す。
「雷、愛してるよ。今度こそ本当に、お休み」
 雷は今にも泣きそうな目で義童を見上げていた。

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 お父さん、お母さん、叔父さん…………………………
 親に声を出して報告できるような内容ではなかった。が、心の中で『義童さんとキスしてしまいました』と伝えた。
 …………嫌いじゃないです。嫌いじゃないけど………
 好きなのかな?全力で拒めよって言われたけれど、拒めませんでした。昨日は、拒んだら悪いかなって思ったけど、今日はそんなこと考える余裕もなくて…なんか、話すと胸が苦しくなる…今日は早いけど、寝るね。お休みなさい…

「高津、電話だぞー」
 昼頃、工場に電話がかかってきた。義童さんからだった。
『雷、今日は少し遅くなりそうなんだ。すまないけど、独りでごはん食べててくれる?』
「あ、はい」
『十一時には帰れると思うけど、遅くなりそうだったら電話するから』
「はい。わかりました」
 義童さん、忙しいのかな…いつも通りに会えなくなって、残念と思った自分に驚く。一昨日から心の中で義童が占める割合が急に大きくなり、戸惑いつつも、普段通りに接してくれる(変なこと言ったりしたりする以外)ので気持ちは楽だ。
 この一ヶ月ほど、ほぼ毎日自宅か義童さんのうちで食事をしていたので、久しぶりに外食することにした。考えてみれば食材の費用もほとんど義童さんが出している。おやつも毎日買ってきてくれるし…明日は自分で食材を買ってこようっと。義童さんはお肉が好きだからすき焼きにしようか…と考えたところでそんな自分がなんとなく恥ずかしくなってしまった。なんか、新婚のカップルみたいじゃないか…嫌いじゃない…でも愛しているのかどうか分からない。両親も叔父さんもいなくなって寂しいけど、それでも普通に生きていけてるし…でも、義童さんがいないとちゃんと食べる気にならないなぁ……
 そんなわけで暫く行ってなかったお気に入りのラーメン屋でさらっと食べ、直ぐに帰った。電話がかかってくるかも知れないし…って、また…
 ……俺、本当にヘンだ……

 
 意外と早く電話が鳴った。
『ごめん、雷、まだ起きてるか?』
「うん」
『今帰ってきたんだけど、おみやげがあるんだ。行っても良い?』
 義童さんはお客さんの家に呼ばれて食事をごちそうになったそうだ。手作りのデザートが美味しかったので、俺の分も貰ってきたって。レアチーズケーキで、レモンのソースが付いていた。コーヒーを淹れて待つ間、どんな料理が出たとか、どんな家族だとか、お客さんの話を沢山してくれた。義童さんが設計した家なのだそうだ。どんな家なんだろう。俺は義童さんが設計した建物を一度も見たことがない。設計図や模型は沢山見せて貰ったけど。本物を見てみたいと思った。
「義童さん、俺、義童さんが作った建物の本物を見てみたい…」
 義童さんはびっくりした顔で俺を見ている。
「雷が私に何かをして欲しいって、初めて言った」
 そうだっけ?
 義童さんはコーヒーを淹れる俺の隣に来て、いきなり抱き締めた。
「義童さん!」
「もっとお願い事してくれ」
「じゃあ……コーヒー淹れさせて!」
 義童さんは笑いながら離してくれた。
「ははははは。やられた」
 レモンソースのチーズケーキはめちゃうまで、ケーキ自体はこってりしているのにレモンソースでさっぱり食べられた。
「美味しかったろ?」
 こくん、と頷く。
「味見させて」
 もう無いのに、と思っていたら、両手で頭を掴まれてキスされてしまった…
「雷、今度の休みはいつ?」
「…あさって」
「じゃあ明後日、私の建物を見て回ろう」
「あの…義童さん…」
「ん?」
「明日、俺が食材買って来ても良い?」
 義童さんは暫く考えてから、良いよ、と微笑んでくれた。

 いつもは絶対買わない百グラム千円の牛肉を1キロ、思い切って買った。この一ヶ月、それ以上の食費を義童に使わせているのは確実だ。デザートはさっぱり系にして、杏仁豆腐。あとは野菜を少し買い足して、すき焼き鍋で焼くだけ。
 義童のうちに材料とすき焼き鍋を持ち込んで、下ごしらえをする。あっと言う間に終わったので、義童が風呂から上がるのを待つ間、近くに置いてあった建築関係の雑誌をぱらぱらめくってみた。建築事務所の特集みたいで、聞いたことあるなと思ったら義童の会社だった。もしかしたら義童の写真もあるかと思い、必死で探す。あった。若手トップの建築家、と紹介されており、むずがゆい気分になる。夢中で記事を読んでいたので、義童が風呂から上がって隣に来るまで気が付かなかった。
「あ、見つかった」
「義童さん、すごい格好良く写ってる!すごく褒めてあるし」
「そりゃあね、雑誌で会社を紹介して貰うのに、酔っぱらって模型を壊したとか、出来上がった設計図にコーヒーぶちまけたとか、言えないよ」
「あるの?」
「あるよ。建物はさすがに壊したこと無いけど…あ、すき焼きだ!早く食べようよ」
「あ、うん」

 超高級肉は飛び上がるくらい美味しくて、市販の杏仁豆腐も水っぽくなく、こっそり買いたしておいた百グラム七百円のなんとかブレンド・コーヒーにも良くあっていた。
「雷、肉代とか、無理してないか?」
「全然。義童さんがずっと食材買ってきてくれたから…今月黒字」
「そうか」
 くしゃくしゃと頭を撫でられる。以前はこれだけで照れていた雷だが、少し慣れたようだった。それに、今日はいつもより笑顔が多い。
「雷、良く笑うようになったな」
 そう言う義童の笑顔に、心臓がひとつ、脈打つ。
 言葉を無くして困っていると、義童が優しく抱き締めてきた。
「お前が、愛しい」
 囁かれ、背筋がぞくりとする。背中を彷徨う手の平がシャツの裾を割って入り、雷の素肌をまさぐる。
「あ…」
 吐息を漏らした口は、直ぐに義童の唇で塞がれてしまった。義童の舌はくちゅくちゅと音を立てながら口の中をまさぐり、どうすれば良いのか分からずに彷徨う雷の舌に熱く絡みつく。絡めては吸い上げ、上あごをなぞられ、雷はされるがままに身を預ける。義童は一旦シャツの中から手を抜くと、シャツのボタンを一つづつ外していった。首筋から肩にかけて手を滑らし、雷のシャツを広くはだけさせる。小柄だが美しい筋肉に縁取られた肢体。まだ誰も触れたことがないであろう、薄い色の乳首にそっと指を這わすと、雷はびくんと跳ね、味わったことのない刺激にから逃れようと、身体を仰け反らせた。しかし義童は逃げる腰をしっかりと抱き留め、仰け反ったのど元に口づけの雨を降らせながら、乳首への愛撫を続けた。円を描くようにこすり、指で優しく摘む。
「あっ…やめっ…ぎど…さん、やだ…あぁ…っ!」
「雷、愛してるよ。嫌なら、本気で抵抗してご覧…ここは、もうこんなにとがってる…」
 ぷっつりと立ち上がった乳首を、指先で掻く。
「あっ、やだ…ぁ」
 抵抗しようにも、そこから全身に広がる快感に負けて、腕に力が入らない。
「ほら、ここももうこんなに窮屈そうだ…」
 股間に伸ばされた手が、雷の下腹部をジーンズの上からすっと撫でた。途端に甘い声が上がる。
「ああぁっ…!だめっ…んんっ!」
「雷、ほら、もっと感じて…」
 手のひらで、ぐっとそこを揉み上げる。
「ああっ!…はぁっ…ん」
 義童は雷の身体を抱き上げると、ついばむような口づけを繰り返しながら寝室へ向かった。ベッドの上に雷を投げ出すと、恥ずかしいのか顔を両手で隠す雷をかき抱きながら、ジーンズの前を開き、張りつめた性器を下着の上から揉み始めた。
「ぎどうさんっ!もう…やめ…っ!はずかしぃよ…」
「雷、私に腕を巻き付けて…私の胸に顔を埋めて…抱き締めてあげるから…私に任せて…」
 雷は素直に言われたとおり抱きついてきた。しっかり抱き締めて、下着の中に手を滑り込ませる。
「こんなに溢れて…ほら…もうぐちゃぐちゃだ…」
「や…っあぁ…」
 猛った若い雄を引き出し、先端を指でくすぐるように弄ると、とろとろと雫を零す。
「だめっ…そこ…やだ…んんっ」
 先端から溢れる蜜を指で掬って竿の部分になすりつけ、ゆっくりと扱くと、ぬちぬちと音を立て始めた。
「あ…っああぁ…っはぁぁっ…!」
「ほら、雷の蜜でいやらしい音がしてる…」
「やっ!いわないで…っ…はぁっ…」
 必死で義童にしがみつき、身体を震わせている。
「も…ぅ、だめっ…はなし…てっ!」
「達っていいよ…出してごらん…」
 扱くスピードを上げると、雷はガクガクと腰を震わせはじめた。
「あああっ…いっ…でるっ!!」
 その瞬間、全身を硬直させて勢いよく精液を放った。

  

きっかけ

義童と雷