「雷…」
 射精の余韻に身体をひくつかせる雷に口づけながら、義童は全裸になり、素肌を重ね合わせる。
「雷、愛してるよ。お前の中も感じたい」
 雷は何のことか分からなかったのだが、すぐに義童の言葉を思い出した。
「義童さん、俺…」
「雷、聞かせてくれ、私のことが好きか?」
 項から鎖骨、そして胸に口づけを滑らせ、乳輪をなぞるように舌を這わせる。可愛らしい乳首をそっと口に含み、わざと音を立てながら吸い上げると、雷はとろけるような快感に自分を失いそうになる。
「んんっ…あ…っは…ぁ…ぎど…さ…」
「私が、嫌いか?」
 雷は、はっきりと首を横に振った。嫌いじゃない…でも…怖い。
「…こわい…」
 好きになって、また失いたくない。
「独りにしないから…絶対に。信じて…ついておいで」
 雷は小さく頷くと、大好きな義童の愛撫に身を任せた。

「あっ…ああぁっん…」
 義童の手が、また雷の性器に添えられた。きつく、ゆるく、扱きながら十分に勃起させると、膝を割り広げ、雷の後ろの蕾にそっと触れる。
「やだ…っ!そんな…んっ」
 潤滑剤をたっぷり手に取り、固く閉じた蕾が開くように丁寧にほぐす。
「力を抜いて…痛くないから。指で、気持ちの良いところを教えてあげよう…」
 つぷっと、指が入る。
「あ…っ」
 感じたことのない異物感に、ぴくっと震えた。
 固い入り口を押し広げるように、ゆっくりと小刻みに出し入れする。挿入されるたびに、少しづつ身体の奥に指先が進んでいく。
「雷、そう、力を抜いて、上手だね」
 言い終わらないうちに、二本目が入る。
「はぁ…っんんっ…」
「雷…ここ…」
 指先を軽く押しつける。
 その近くを指が掠ったとき、雷の解された中が締まり、少し痙攣したのだ。義童はその先にあるはずの悦楽の源を探し当て、じっとりと弄る。
 雷は恐ろしいような愉悦の波にさらわれて、悲鳴のような声を上げた。
「あっああぁぁっーー…!ぎど、さんっ…んんっぁ!」
 逃げようとする腰を抱き締め、指の動きを大胆にする。内壁が柔らかくうねるように蠢く。一番良い場所に指があたるたびに声が上がり、完全に勃ちあがった性器の先端から喜びの雫があふれ出る。
「ああっ…あっ…あっ…はぁっ…っ!」
 ドロドロに溶けたような内壁が、義童を待ちわびている気がして、義童は指を引き抜くと、自身の、雷を求めて反り返ったモノの先端を、蕾に押し当てた。そこが、誘い込むようにひくついている。
「雷、少しだけがまんして。もう待てない」
 ぐっと推し進める。
 熟れきった雷の内壁が、初めての挿入に驚きながらも迎え入れようと細かく痙攣する。
「はっ…ああっ…!ぎどうさんっ…」
 痛みより、胃を押し上げられるような圧迫感と、熱さとで息もまともに出来ない。
「雷、ゆっくり息をして…」
 味わったことのない感覚に、義童の声もうわずっていた。
「すごい…雷…溶けて、絡みつく…」
 動きもせず、ただ身体を繋いでいるだけなのに、収縮を繰り返しながら蠕動する雷の中で、義童は射精感に襲われていた。唇を噛みしめて耐える。
 雷の苦しさが落ち着くまで、じっと動かず、抱き締める。
「雷…ゆっくり動くから…呼吸をして…」
 義童でさえそれだけを言うのに必死だった。ゆっくり動き始めると、雷はあっという間に耐えきれない快感に飲まれる。
「ああっ…もうっ…だめっ…んっ…い、ちゃうっ」
「雷、良いよ…達って…」
 大きく、深く腰を穿つと、雷は義童をぎゅうぎゅうに締め付けながら射精した。奥深くに吸い込むように締め付けられ、義童も何度か腰を動かしただけで、雷の中に放精してしまった。

「雷、愛してるよ…どうしようもないくらい、愛してる」
「義童さん、好き。大好き」
 朦朧としながら囁きあい、我を忘れて何度も愛し合った。腕を、足を、舌を絡ませて、のたうち回るように…

 翌朝、義童より少し早く目覚めた雷は、夕べのことを思い出して、独り赤面しまくっていた。気持ちよすぎて何をやったのかすら思い出せないけれど、身体やベッドに残った残滓が、事の顛末を雄弁に物語っている。
 もぞもぞ、ごそごそしていると義童が目を覚ました。今すぐ逃げ出して、穴を掘って一生閉じこもりたいくらい恥ずかしい。
「雷…」
 義童が寝ぼけながら、雷を抱き寄せる。
「…おはよう…」
「お、お、おはよう、ございますっ」
 雷の声が裏返っている。
 義童は雷を抱き締めたまま、うーんと唸りながら身体を伸ばした。
「義童さんっ、俺、帰らなきゃ…」
「ん?」
 義童の腕をほどいてベッドから抜け出そうとすると…足がもつれて上半身だけ床にずり落ちてしまった。
「雷…お前は少しゆっくりしていなさい…といっても、すごいな、この状態…」
 義童もその惨状に気がつき、苦笑い。雷を床から引っ張り上げると、朝の挨拶にしては濃厚なキスをした。
「雷、ちょっと待ってて」
 義童はそう言い残し、勢いよく立ち上がると浴室へ向かった。湯船に勢いよく湯を張り、寝室へ引き返す。浴室を出て直ぐ、雷が寝室の床に転がっているのが見えた。どこからでも見えるように設計したのだが、初めて見た恋人の姿に笑みがこぼれる。想像していた艶姿ではなく、腰が立たなくなって戸惑う可愛らしい姿。
「雷、じっとしてて」
 駆け寄って、シーツと共に床に転がる未熟な恋人を、よっこらしょと抱き上げる。まだ戸惑ってじたばた藻掻く雷を浴槽に放り込み、寝具のカバー一式は手早く剥ぎ取って洗濯機に放り込んだ。カバーの洗濯は洗濯機に任せ、義童は恋人を洗濯するために浴槽に身を滑り込ませた。

「義童さん、俺、帰らなきゃ…」
 不安げな顔で義童に訴える。
「ん?どうした?」
「…無断で外泊してしまった…」
「?」
「外泊するときは、ちゃんと報告しないと…」
「ご両親と叔父さんに?」
 こくん。
「そうか…一緒に暮らしてるんだもんな。心配するよな」
 こくん。
「こうなったら仕方がない。きちんと支度して、朝ご飯も食べて、一緒に謝りに行こうな」
 洗い立てでまだ濡れている頭をくしゃっと掻く。
 しかし雷は本気で焦っていた。手早く準備を済ませて、雷の心配を取り除かなければ…
 身支度を調え、雷と一緒に家へ帰る。雷はすぐに仏間に入り、小さな湯飲みを手に取ると台所へ向かいお茶を淹れる。
 お茶を仏壇に供えて、二人並んで正座する。雷がりんを鳴らし、静かに手を合わせた。
「義童さん、あのね、ちゃんと声に出して言わなきゃいけないんだ…」
 雷が恥ずかしそうに俯いて呟いた。
「分かった。いつものようにやってみて」

 お父さん、お母さん、叔父さん、おはようございます。昨日は無断外泊してごめんなさい。義童さんの家でごはんを食べて………

 雷は黙り込んでしまった。義童だって初体験の報告を両親にしたことなんかない。きっと雷は、毎日の出来事を包み隠さず報告していて、例えそれが仏様への報告だとしても、正直に全てを話していたのではないか?
「雷、私から報告するよ」
 
 えー…義童です。昨夜、雷と結ばれました。以前にも伝えた通り、絶対に雷を独りにしません。例え私が早く死のうと、幸せだったと、雷が笑って過ごせるような人生を約束します。どうぞ私たちの関係を許して下さい。そして、見守っていて下さい。

「義童さん…いつそんなこと言ったの?」
「んー、二度目に此所に来たとき?」
「そんなに前から?」
「雷が初めてうちに来た日のこと覚えてるか?あの時には実はもう、下心があったよ」
「…え」
「しんみり話してるときに、雷がチョコレートに入ったマカデミアナッツをガリゴリ噛んだんだ。それで、なんだか克彦のことが吹っ切れてお前のことが好きになった」
「そんなことで…」
「きっかけなんてそんなモノだよ。それから毎日雷と会いたくなって、口実を作っては会い、雷が本当は寂しくて独りになるのが嫌なんだって伝わってきた。雷と付き合うなら一生かけて付き合う覚悟がいるってこともね。雷、そろそろ出ようか?一度会社に寄って行きたいから」
 今日は義童さんの車で出掛けた。

 会社に寄った後、最初の目的地に行く。住宅街にある小さなカフェで、義童と同僚が共同で設計したものだ。取りあえずお茶でも飲むことにした。 
 女性オーナーなので、さすがに細かいところまで綺麗に保っている。
「はじめてこんなお店に来た」
 雷はテラスの椅子に座って眩しそうに笑っている。
「そうか。じゃあ一緒に色々な店に行こうな」
 こくん。
「で、どう?」
「義童さんのうちよりも、こんな温かい感じのほうが好きかも…」
「そうだな…うちはかっこつけ過ぎたもんな。でも、理由があるんだ。後で帰ったら教えてあげるよ」
 例の、何処にいても恋人が見えると言うやつである。
 こくん。
「お店に名刺置いてくるから、ちょっと待ってて」
 オーナーが不在だったので遊びに来たことだけ伝えて貰う事にして、次の目的地へ向かう。
 個人宅を幾つか回り、遅い昼食を取るためレストランへ。ここも義童が係わった。カジュアルなイタリアンを出すお店で、義童もお客としてしょっちゅう通っている。雷も気に入ったようで、メニューを全部食べるまで通い詰めるとシェフに約束して店を出た。
 その後は専門学校や病院などの大きい建物を見て回り、夕方にはブティックで雷に洋服をプレゼントする。普通に今時の若者らしい格好をしていたが、少し良い物を着せてみると、五割り増しで格好良さ増。自分でも結構気に入ったようだった。値段には顔をしかめたが…新しく買った服を着て、美容院に行く。
「義童さん、全部知り合いの店でまにあっちゃうね。今度はスーパーとかデパートも作って」
 そうしたら義童が忙しくて会えない日でも、毎日通えるスーパーなら、いつでも義童の心に触れられる気がする。
「すっかりいい男になったところで、夜の町に行こうか」
 最後はバーを何軒か梯子して、雷の運転で帰宅。

 雷の家でいつもの日課の報告をするけれど、今夜は初めて二人で報告した。行った場所を全部思い出して、細かく報告。義童も時々口を出し、報告しているんだか無駄話しているんだか分からない状態だった。
「では、今日も雷君をうちに連れて行きます。ごめんなさい。お休みなさい」
 と勝手に締める。
 仏間を出て、きっちり襖を閉め、雷を抱き寄せ口づける。
「ん…んっ…義童さん…ダメ」
「どうした?」
「歯を磨いて、お風呂に入って、目覚ましかけてから」
 目覚まし…確かに。そうでもしないと、明日もまともに起きられそうにない。
 歯ブラシと着替えと目覚まし時計を持って義童の部屋へ行く。部屋に入るなり、やっぱり抱き締められてキスの嵐を受ける。
「ぎどうさんっ、ちょ…目覚まし!」
 既に半分理性が飛びかけている義童の腕の中で藻掻きながらセットした時計を、寝室のベッド目がけて投げる。浴室にたどり着いて歯ブラシに歯磨き粉を付けて義童の口に突っ込むと、義童も少し正気に戻って大人しく磨き始めた。
「もう…大人げないんだから…少しは落ち着いた?」
「ああ、たぶん」
「あの…義童さん、先に入る?」
「ん?一緒に入るんじゃないの?」
 雷は赤面して俯く。
「…はずかしい…」
 今夜は羞恥プレイ決定だな、と義童は心の中で鼻の下を伸ばした。昨夜は義童も流されっぱなしで、何をやったのかあまり覚えていないのだ。
「ふふん。昨夜あんなことしたのに?今朝も一緒に入ったよ?」
「……!」
「じゃあ私が先にはいるから、雷は後な」

 風呂から上がって水分補給している雷を背中から抱き締め、首筋に唇を這わす。
「ちょとまって…な、なんでこんな部屋にしたのか教えて…」
 そんな話しをしたかな、と思い出したが、訳を聞いたら沸騰するのは確実だ。でも、前戯にはちょうど良いかもしれない。
「寝室のベッドがここから見えるだろ?」
「うん」
「こっちに来て座ってみて」
 仕事スペースの椅子に座らせる。
「ここからも見えるだろ?」
「うん」
「じゃあ風呂場のドアから」
 そしてリビングスペース。
「どこからでも見えるだろ?」
 こくん。
「どこからでも恋人の色っぽい寝姿が見たかったから、寝室の壁の一部を強化ガラスにしたんだ。そしたら他の部分も近代的なほうが似合うだろ?」
 こくん。
「雷が、私に愛されて、疲れ果てて眠っている姿をどこからでも見られる…」
 バスローブの合わせから手を差し込み、素肌に触れる。
「あ…」
 項に舌を這わせながら胸をまさぐり、乳首に触れると雷のはぶるっと震えた。指先でじっくり弄ぶ。
「あぁ…ん…や…」
「乳首は触って欲しそうだよ…もう勃ってる。もう片方は?寂しそうだな…」
 バスローブを下げて上半身を剥き出しにする。雷は床に落ちてしまわないようにバスローブを掴んで離さない。無防備になった胸元の両乳首を同時に責めると、雷は身をよじって少しだけ抵抗した。
「や…ぁ…んん」
「雷、もっとして欲しい?」
 綺麗についた筋肉を一つ一つ確かめるように指先でなぞる。わざと乳首を避けてじらしながら…
「あっ…あ…」
「雷の気持ち良い所を弄ってあげるから、言ってご覧」
「や…ぎど…さん、そんな…」
 乳首のぎりぎり近くを執拗に弄りながら、もう片方の手を小さく引き締まった尻に当て、ゆっくり揉む。
「あっああっ…!」
「乳首を弄って欲しい?」
 かすかに、何度か首を縦に振った。
「言ってご覧、乳首を弄って…て」
「ん…んっ…いじって…ぁ」
「どこを?」
 耳たぶに息を吹きかけながら、尻をぐっと掴みひろげる。
「はぁぁっ…んん…ちく…び…いじ…って」
 尖った乳首を指先で扱き、摘み、こね回すと雷は身を縮めて刺激から逃れようとする。
「はんっ…んん…」
 義童は雷を抱き上げると、喘ぎを漏らす口に深く口づけながらベッドへ運び込んだ。
 そっと横たわらせ、激しく上下する胸を優しくなでながら、柔らかい唇を堪能する。
「雷、自分でバスローブの紐を解いて、前を開けて…」
 雷は潤んだ目を伏せながら、言われた通りに紐を解き、少しだけ前を開いた。
「もっと。全部見せて…」
 雷は、先ほどからの刺激で勃ちあがった下腹を見られたくなかった。昨夜より意識がはっきりしているので、自分がどれだけ感じまくっているかも分かる。一昨日までは、こんな感覚を知らなかった。独りで弄ることはあっても、誰かに触られて、しかも愛されて、気持ちよすぎて乱れまくる自分の姿など想像できなかった。
 恥ずかしい。でも、義童さんが好き。
 雷は泣きそうになりながら、前を開く。
「良い子だ、雷。もうこんなになってたんだな…可愛そうに…楽にしてあげるよ」
 義童は言うなり下着をずらし、はち切れそうになった雷の性器を口に含んだ。
「あっ!やぁっ…あぁっ…!」

 雷の身体は私に愛されるために存在しているような気がする。そう思えるくらい、義童を虜にした。
「義童さん、お願い…もう…明日、仕事行けなくなる…」
 昨日の今日なのに、何度求めても足りなくて、雷のほんの少しの声や表情で欲望に火がついてしまう。
「雷、ごめん。でも、お前が色気ありすぎるんだ…雷、酷くしないから…足を開いて…」
 いやいやと可愛らしく抵抗しながら、それでも言うとおりに足を開いて顔を背ける。何度も受け入れてすっかり柔らかくなった雷の後穴は、濡れてひくつきながら淫らに義童の杭が打ち込まれるのを待っていた。
「雷、中が…吸い付いてくる…」
「んんっ…はぁぁっ…っ」
 ゆっくり身体を埋める。雷の喉が仰け反り、背がしなる。その背中に手を差し込んで膝の上に抱え込む。
「やっ…あ…ん」
「雷、愛してるよ…愛してる」
 言葉と同時に腰を突き上げると、雷は身体の力をすっかり抜いて全身を義童に預けてきた。

   

きっかけ

義童と雷